― 香りと辛みが、保存食を“ごちそう”に変える ―
生態 ― 香りと辛みのしくみ
ユズの香りは果皮の油胞に蓄えられた精油による。主成分のリモネンに、シトラールやγ-テルピネンが重なって、明るい柑橘香になる。
柚子胡椒の辛みはトウガラシのカプサイシン。油に溶けやすい性質があるため、ユズ皮の精油と混ざると香りの立ち上がりが早く、鼻に抜ける余韻が長くなる。
文化 ― 山里の調味が生まれるまで
柚子味噌は、保存味噌に刻んだユズ皮と果汁を混ぜて作る山里の常備調味。甘味を加える地域も多く、焼き田楽、茹で野菜、焼き魚に塗って香りを立たせる。
柚子胡椒(地域によっては「柚子こしょう」)は、青ユズ皮・青唐辛子・塩を石臼で練り上げる九州北部発祥の薬味。鍋、汁物、焼き鳥、刺身の薬味にまで広がり、近年は全国区の調味料となった。
どちらも“保存の知恵”から生まれている。採れたユズの香りを季節の外に持ち出すため、塩・味噌・唐辛子という保存基盤に香りを固定した。近年は果汁搾りや真空パックで安定化し、家庭でも失敗が少ない。
詩 ― 香りが台所をあたためる
味噌に刻んだ皮を混ぜると、台所の空気が少し明るくなる。
臼に広がる香りと辛みは、冬の手仕事の音。
ひとさじで、食卓に季節が戻ってくる。
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