🎋 ウナギ7:回遊と移動 ― 遡上・降海・産卵の旅のしくみ ―

ウナギシリーズ

ウナギの一生を特徴づけるもの――それは、川と海を行き来する回遊である。外洋で生まれた幼生は海流に運ばれ、やがて河口を越えて淡水へ入り、長い時間をそこで過ごす。そして成長したのち、再び海へ戻り、遥か遠くの産卵場へ向かう。この往復は、魚類の中でもとりわけ複雑で、長い距離をともなう旅となっている。

陸地と海の境界、塩分の勾配、潮の満ち引き、川の流れ――ウナギはこれらの変化を敏感に感じ取り、自身の移動を調整していく。移動のリズムは季節とも結びつき、環境の変動に応じて年ごとに微妙な違いを見せることもある。

遡上と降海という二つの道のりには、生理的な準備と環境の整合が欠かせない。特に降海期に見られる体の変化(銀化)は、外洋での長距離移動を可能にするための重要な適応だ。

🎋目次

🏞️ 1. 遡上の仕組み ― 塩分と光を感じて川へ向かう

淡水へ入る直前のシラスウナギは、塩分濃度のわずかな違いを敏感に察知し、河口の位置を探る。また、潮の動きの変化を利用しながら、夜の暗さを頼りに遡上していく。

  • 塩分の勾配:淡水側へ近づくほど塩分が下がり、その変化が“入口”を知らせる。
  • 潮汐の利用:満潮時に流れが緩む瞬間を狙い、群れとなって遡上する。
  • 視覚以外の判断:光の強弱、温度、水のにごりなど複数の要因を総合的に利用。
  • 群れでの行動:個体がまとまることで、捕食のリスクを減らす。

この“川へ向かう本能”は、幼生期の段階から受け継がれた方向性を反映している。

🌙 2. 夜の移動 ― 捕食者を避けるための静かな選択

ウナギは遡上・降海ともに、夜間の移動が中心となる。暗闇は捕食者から身を守るだけでなく、ウナギ自身の感覚器がもっとも有効に働く時間帯でもある。

  • 夜行性:視覚に頼らない生活の延長として、夜の移動に特化している。
  • 捕食リスクの軽減:鳥類や大型魚の活動が低い時間帯を選ぶ。
  • 感覚器の優位性:嗅覚と側線が、暗い環境でも移動を可能にする。
  • 静かな動き:水流を乱さず移動するため、外敵に気づかれにくい。

ウナギにとって夜は、移動と採餌の“本来の時間”だといえる。

🌊 3. 降海の準備 ― 銀化が示す外洋への適応

淡水で長く過ごしたウナギが成長すると、やがて外洋へ戻るための準備が始まる。この段階を降海期と呼び、体には顕著な変化が現れる。

  • 銀化:体色が銀白色になり、海中での視認性が下がる。
  • 目の拡大:暗い外洋で光を捉えるために、眼が大きくなる。
  • 消化器の退縮:産卵に集中するため、長距離移動に特化した体へ変わる。
  • 運動能力の向上:筋肉の発達と皮膚の変化により、持久力が増す。

この過程は、淡水での成長を終えたウナギが、海という原点へ戻る“合図”でもある。

🧭 4. 海洋回遊と産卵の旅 ― 遥か外洋でふたたび命がつながる

降海したウナギは、河口から外洋へと向かい、産卵場まで数千キロの旅に出る。太平洋ではフィリピン海プレート付近、大西洋ではサルガッソ海が主な産卵場として知られる。

  • 長距離移動:数千キロを移動する持久力は、淡水での蓄えが支える。
  • 海流の利用:黒潮や湾流などの大規模循環が、産卵場への“道筋”となる。
  • 繁殖行動:産卵は深海域で行われると考えられ、親は産卵後ほどなく力尽きる。
  • 命の循環:そこで産まれた卵は再びレプトケファルスとなり、海流に乗る。

こうしてウナギの旅は終わり、同時に次の世代の旅が静かに始まる。

🌙 詩的一行

夜の潮をわたる黒い影が、遠い海の記憶をたぐり寄せていく。

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