🎋 ウナギ5:生活史② シラスウナギ ― 海流に乗り河口へ向かう稚魚期 ―

ウナギシリーズ

外洋を長い時間漂ってきたレプトケファルスは、陸地の影が近づく頃、体の形を大きく変え始める。薄く透明だった幼生は、丸みを帯びた細長い姿へと変態し、白いガラス玉のような稚魚――シラスウナギになる。深い海の静けさの中で生まれた命が、初めて川という別の世界へ向かう準備を整えた瞬間だ。

シラスウナギは全長5〜7センチほどの透明な稚魚で、骨や器官がまだ未成熟ながら、成体に近い体形を備えている。体内は透けて見え、細い筋肉がかすかに光を反射する。その軽さと透明性は、外洋での漂流を続けるために必要だった特徴だが、河口へ向かう段階においても、捕食者から目立ちにくいという利点を保ち続ける。

やがて海流に乗って河口付近まで到達すると、シラスウナギは淡水へ入るタイミングを慎重に見極める。潮の満ち引き、塩分の勾配、夜の暗さなど、複数の環境要因を手がかりに上流へ向かう。ここから先は、外洋とはまったく異なる環境が待っている。

🎋目次

💧 1. シラスウナギへの変態 ― 透明な稚魚の誕生

大陸棚へ近づくにつれ、レプトケファルスは劇的な変態を迎える。扁平だった体は丸みを帯び、筋肉が発達し、ウナギらしい細長いシルエットに変わる。

  • 体形の再編:葉状から円筒形へと形が整い、淡水生活に必要な筋肉が形成される。
  • 透明性の維持:体はまだ透けており、外敵から身を隠す効果が続く。
  • 器官の発達:消化器や感覚器が機能し始め、採餌の準備が整う。
  • 大きさ:全長5〜7cm前後の稚魚に成長する。

この変態は、海を漂う生活から、川を遡る生活への大きな転換点である。

🌊 2. 海流に乗る旅 ― 大陸棚へ導かれる仕組み

シラスウナギは自力で長距離を泳ぐことはできないため、外洋の海流が移動の主な手段となる。太平洋では黒潮、大西洋では湾流系の循環など、安定した流れが幼生と稚魚を沿岸へ運ぶ。

  • 受動輸送:海流の速度と方向に身を任せて移動する。
  • 環境勾配の感知:水温・光量・塩分濃度の変化が、陸地の近さを知らせる。
  • 移動の幅:数千キロに及ぶこともあり、広い範囲へ分布が広がる。
  • 到達の精度:多数の個体が河口付近に集まるが、これは海流の流れが地形と一致しているため。

海流を利用する仕組みは、ウナギ科が世界に広く分布する理由のひとつとなっている。

🌉 3. 河口への到達 ― 塩分の境界を越える瞬間

河口は海水と淡水が混ざり合う不安定な環境で、シラスウナギが生活を切り替える重要な場所だ。ここで稚魚は、淡水へ進むか、近くにしばらく留まるかの判断を行う。

  • 塩分勾配:淡水へ近づくにつれて塩分が下がり、体内の浸透圧調整に変化が起こる。
  • 夜間の移動:暗い時間帯のほうが捕食リスクが低く、遡上が活発になる。
  • 群れでの行動:多数のシラスウナギがまとまって動き、外敵を分散させる。
  • 適応の開始:淡水環境への浸透圧調整機能が徐々に働き始める。

ここを越えることで、ウナギは初めて川という新たな生活圏に踏み出す。

🔎 4. 稚魚期の適応 ― 捕食回避とエネルギー戦略

シラスウナギは非常に小さく、外敵も多い。そのため、この時期の生存には「目立たないこと」「無駄なエネルギーを使わないこと」が鍵となる。

  • 透明性:光を反射せず、水中で輪郭が消えるような体を維持。
  • 省エネ生活:強く泳がず、潮の流れを利用して移動する戦略。
  • 分散と集中:外敵回避のために群れを作りつつ、河口では集中して遡上。
  • 変態準備:淡水での成長に備え、体内でエネルギー蓄積が始まる。

この時期を無事に乗り越えた個体だけが、川の世界で成長の時間を得ることができる。

🌙 詩的一行

白い影が波間に揺れ、静かに川への道を見つけていく。

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