秋の干潟に、灰色の影が次々と降り立つ。白さが際立つタンチョウとは異なり、どこか土や空の色をまとったような姿で、群れは静かに広がっていく。
マナヅルとナベヅルは、日本では「渡ってくるツル」として知られている。毎年ほぼ同じ季節に現れ、同じ場所で冬を越し、春になると再び去っていく。その規則正しさは、渡り鳥としての完成度の高さを示している。
この二種はよく並べて語られるが、同じ場所で暮らしながらも、体の大きさや行動、分布の広がりには違いがある。まずは、共通する基礎から見ていこう。
🧾 基礎情報
- 和名:マナヅル/ナベヅル
- 英名:White-naped Crane / Hooded Crane
- 学名:Grus vipio / Grus monacha
- 分類:ツル目ツル科(ツル属)
- 分布:東アジア(ロシア・中国・朝鮮半島・日本)
- 生息環境:湿地、干潟、農地、草原
- 体長:マナヅル:約130cm/ナベヅル:約100cm
- 翼開長:マナヅル:約220cm/ナベヅル:約180cm
- 体重:マナヅル:約6kg/ナベヅル:約3〜4kg
- 食性:雑食(植物、昆虫、小動物、落ち穂など)
- 繁殖:繁殖地は大陸側、地上営巣
- 寿命:野生で20年前後
- 保全状況:IUCN:マナヅル EN/ナベヅル VU
- 日本での位置づけ:冬鳥(主に九州)
🎐目次
🌿 1. 二つのツルの姿 ― 大きさと色の違い
マナヅルとナベヅルは並ぶと体格差がはっきりと分かる。マナヅルは大型で、ナベヅルは一回り小さい。
- マナヅル:首筋に白い帯があり、体は灰色。
- ナベヅル:全体に濃い灰色で、頭部がやや暗色。
- 脚:どちらも黒く長い。
- 飛翔:マナヅルはゆったり、ナベヅルはやや軽快。
色合いは控えめだが、群れの中ではそれぞれの輪郭がはっきりと浮かぶ。
🗺️ 2. 渡りの生活 ― 日本で迎える冬
両種は繁殖期を大陸で過ごし、冬になると日本へ渡ってくる。特に九州の干潟や農地は重要な越冬地だ。
- 渡来時期:10〜11月頃。
- 越冬地:鹿児島県出水市周辺が代表的。
- 春の旅立ち:2〜3月。
- ルート:世代を超えて受け継がれる。
日本は、彼らにとって一年の一部を過ごす場所である。
🌾 3. 群れで暮らす ― 越冬地の行動
越冬期のマナヅル・ナベヅルは大きな群れを作る。群れは安全と効率をもたらす。
- 採食:農地や干潟で集団行動。
- 休息:夜は水辺でまとまって休む。
- 秩序:過度な争いは少ない。
- 情報共有:餌場や危険を察知。
この群れは、繁殖期には解体され、それぞれのつがいへ戻っていく。
🔎 4. マナヅルとナベヅルの違い
よく似た二種だが、生態的な違いもある。
- 体格:マナヅルの方が明らかに大型。
- 分布:マナヅルはやや分布が広い。
- 個体数:ナベヅルの方が多い年もある。
- 保全:両種とも越冬地への依存度が高い。
同じ場所で暮らすからこそ、違いがはっきりと残っている。
🌙 詩的一行
灰色の群れは、冬の土地に静かな重さを残していく。
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