🕊️ トンボ8：ナツアカネ ― 夏を映す淡い赤 ―

夏の光に照らされると、
草地の影の中からふわりと淡い赤が浮かび上がる。
強い暑さにも揺れることなく、小さな影が静かに風を読んでいる。

それがナツアカネ。
同じ赤とんぼでも、秋よりも夏に色が深まるのが特徴だ。

■基礎情報（ナツアカネ）
・分類：トンボ目トンボ科アカネ属
・学名：Sympetrum darwinianum
・分布：日本各地（北海道〜九州）
・体長：約3.5〜4.5cm
・主な生息環境：低地の草地、ため池、里山、水路
・成虫の出現期：初夏〜秋（低地で成熟し、そのまま居つく）

🕊️ 目次

ナツアカネは、成熟すると腹部が濃い赤に染まる。
同じ赤とんぼでも、秋に深まるアキアカネと違い、
夏の盛りに色が最も濃くなる。

翅は透明で軽く、風に当たるとわずかに揺れ、
日差しの強い季節のなかで小さな光を拾っているようだ。

ナツアカネは、アキアカネのように高原へ移動しない。
低地の池や草地にとどまることが多い。
周囲の温度変化に強く、暑さにも比較的耐えるためだ。

ため池や水路など、身近な場所で見られることが多く、
夏の風景に静かに溶け込んでいく。

見た目が似ているため、ナツアカネとアキアカネはよく混同される。
しかし、生態は大きく異なる。

・アキアカネ：夏は高原へ移動し、秋に赤く染まる
・ナツアカネ：低地にとどまり、夏の盛りに色が深まる

季節がつくる赤の違いは、
日本の風景そのものを映し出しているようでもある。

ナツアカネは浅い水辺を好み、
水際近くで卵を落とすように産みつける。
卵は泥の中に沈み、春にヤゴとして姿を現す。

ヤゴの期間は約1年。
ため池や水路の底で過ごし、次の夏に羽化して空へ帰る。
その静かな周期が、季節にリズムを添えている。

淡い赤は、夏の光の中でそっと漂っていた。