季節がめぐるたび、水辺の景色は静かに変わる。
春の薄い光、夏の濃い緑、秋の澄んだ風。
そのどれにも、トンボの影がそっと寄り添ってきた。
日本の暮らしの風景には、いつも小さな翅の気配があった。
それは、自然と人のあいだに続いてきた、静かなつながりのひとつだ。
🕊️ 目次
🌱 春 ― 水面が生まれ変わる季節
春、田んぼや池の水が張られると、風景は一気に明るくなる。
水草が息を吹き返し、ヤゴがゆっくりと動き出す。
まだ成虫の姿は少ないが、水面の変化はこれからの季節を知らせてくれる。
小さな水辺の気配は、暮らしの中で“春の初めの合図”だった。
🌿 夏 ― 緑の風に乗るヤンマの影
夏、緑が濃くなるとともに、ヤンマが水面を巡回し始める。
強い光と深い影のあいだを行き交う姿は、夏の象徴のひとつだ。
湿地や河川では、胸の色を光らせながら飛ぶ大型種が目立ち、
里山では昼下がりの風に合わせて低く舞う姿がよく見られる。
夏の風景には、いつも青と緑の影がゆっくりと重なっていった。
🍁 秋 ― 赤トンボが里山に戻るころ
秋になると、赤トンボが風景の主役になる。
高原で育った個体が里山に戻り、田んぼの上をふわりと渡る光景は、
日本の秋を象徴する場面として語り継がれてきた。
夕暮れの光が弱くなるほど、赤の色は澄んで見え、
季節の移り変わりをそっと知らせてくれる。
❄️ 冬 ― 静寂の中に残る水辺の記憶
冬、水辺は静まり返る。
成虫はほとんど姿を消し、風景だけが季節を語り始める。
しかし水底では、ヤゴがしずかに春を待っている。
姿は見えなくても、命の循環が途切れることはない。
冬の水辺には、季節を越えて続く小さな気配が残っている。
🌙 詩的一行
風景が変わるたび、翅の影がそっと寄り添っていた。
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