🕊️ トンボ12:ハグロトンボ ― 黒い翅の静かな舞 ―

トンボシリーズ

川沿いを歩いていると、
黒い影がふわりと浮かんでは、ゆっくりと沈むように舞う。
光を通さない翅が、風よりも静かな速度で動いている。

それがハグロトンボ
日本の水辺で最も幻想的ともいえる、黒い翅を持つトンボだ。

■基礎情報(ハグロトンボ)
・分類:トンボ目 カワトンボ科 ハグロトンボ属
・学名:Atrocalopteryx atrata
・分布:本州〜九州(やや温暖な地域に多い)
・体長:約6〜7.5cm
・主な生息環境:緩やかな川、渓流、水路沿い
・成虫の出現期:初夏〜盛夏


🕊️ 目次


🖤 姿と色 ― 黒く透けない翅が示す存在感

ハグロトンボの最大の特徴は、光をほとんど通さない黒い翅
他のトンボのように透明ではなく、影そのものが舞うように見える。

体は細長く、金属光沢を帯びた深い緑色や黒色。
静かな水辺に佇むと、その姿が風景の一部として溶け込んでいく。


🌿 飛び方 ― 風よりゆっくりと舞う影

ハグロトンボは、翅を大きく上下させながら、
ゆっくり、ふわりとした動きで飛ぶ。
他のトンボの素早い飛翔とは大きく異なる独特の飛び方だ。

その動きは風のようであり、風ではない。
水面近くで揺らぐ黒い影は、見る者に静けさを残していく。


🏞️ 暮らす場所 ― 清らかな川に寄り添う理由

ハグロトンボは、水の透明度が高く、流れの緩やかな川を好む。
水草が揺れ、石が多い水辺は、ヤゴが隠れるには最適な環境だ。

都市部では減少傾向だが、里山や渓流沿いでは今も健在。
環境の変化に敏感なため、ハグロトンボがいる川は、
その水が“良い状態”である指標にもなる。


🥚 産卵と生活史 ― 水草と石のあいだに続く命

産卵は、水草や石の表面に卵を埋め込むようにして行われる。
流れの中でもしっかり付着するため、卵は流されにくい。

ヤゴは落ち葉のあいだや石の裏で過ごし、
ゆっくりと時間をかけて成長する。
羽化は初夏〜盛夏にかけてで、
翅を広げた黒い影が静かな川に舞い戻る。


🌙 詩的一行

黒い翅は、水音のなかでそっと浮かんでいた。


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