滋賀・びわ湖流域で始まった「人と湿地」の再びの共生(2025年11月2日)
秋の風が吹くと、水辺の草がさざめく。
その音は、かつてこの地に広がっていたヨシ原の記憶を呼び覚ます。
滋賀県・野洲川流域で、
失われたヨシ原を取り戻すための再生プロジェクトが始まった。
地元の環境団体と自治体、大学の研究者が協力し、
びわ湖の自然浄化機能と生態系を取り戻す取り組みだ。
かつてこの地域には、湖岸一帯に広大なヨシ帯が広がっていた。
ヨシは水を浄化し、魚の産卵場や鳥たちの休息地となる。
だが、護岸工事や生活排水、土地利用の変化によって、
その多くが失われていった。
今回の再生活動では、
流域の農地から出る有機物を利用して、
ヨシの育成地を再構築するという。
植栽に加え、地域住民が協力して
「焼きヨシ」文化の復活も目指す。
古くは楽器のリードや紙、屋根材としても使われたヨシ。
それは人の生活とともにあった植物だった。
この取り組みは、単なる自然保全ではない。
人の手で育て、また人の暮らしに取り込む。
“生かしながら守る”という新しい保全の形が、
この小さな流域で芽吹こうとしている。
ヨシが風に揺れる音は、
湿地と人のあいだに流れる、古い記憶のようだ。
その音を再び聞くことができるのは、
自然と人がもう一度、互いに歩み寄れるからだろう。
🏞 せいかつ生き物図鑑・地方編
― 四季をめぐる観察記 ―出典:滋賀県広報/中日新聞/びわ湖環境科学研究センター
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