目に見えない命をすくい上げる新しい観察のかたち(2025年11月1日)
川や池の水をひとすくい取るだけで、
その中に生きる無数の命の痕跡を知ることができる――
それが「環境DNA(Environmental DNA)」という技術だ。
近年、日本各地の研究機関がこの方法を使って、
水辺の生物分布を調べている。
魚やカエル、昆虫、さらには外来種の侵入までも、
水に残る微量なDNAから特定できるという。
この調査では、
一見きれいに見える川の中から、
姿を見せなかった外来魚の痕跡が見つかることもある。
また、絶滅したと思われていた小型の淡水魚のDNAが検出され、
その地域で再発見につながった例もある。
環境DNAは、生きものを捕まえずに存在を確認できる。
つまり、生態系を壊さずに“そこにある命”を記録できる。
それは、観察という行為のあり方を変える技術でもある。
ある研究者は言う。
「DNAは、水の中の“記憶”のようなもの。
そこには、すでに去った命の痕跡も残っている。」
この技術が示しているのは、
自然の中に“いま見えないもの”が、確かに存在しているということだ。
人の目に映る風景はほんの一部で、
水や風、土の中には、静かに流れる生命の記録がある。
秋の川面をのぞくと、
そこに魚影は見えない。
けれど、その水の中には、
数えきれない命の記憶が漂っている。
見えないものを感じ取る力。
それが、これからの自然観察の形になるのかもしれない。
🏞 せいかつ生き物図鑑・地方編
― 四季をめぐる観察記 ―出典:環境DNA学会/環境省/日本自然保護協会
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