人口減少が促さない自然の回復(2025年10月30日)
日本の山あいにある里地里山は、
かつて人と自然が共に暮らす風景だった。
田んぼを耕す音、ため池に映る空、
林の奥で鳴く小鳥や虫たち。
しかしいま、その静けさは少し違う。
最近の全国調査で、
人口が減っている地域でも、生きものの数が増えていないことが分かった。
158地点の里地里山を対象にした解析では、
鳥やチョウなど多くの種が減少傾向を示していた。
「人が減れば自然が戻る」――そんな単純な関係ではなかったのだ。
里山は、もともと人が手を入れることで成り立ってきた。
草地を刈り、池を清め、林を間伐し、
その中で生きものたちは居場所を見つけてきた。
けれど人がいなくなると、
草地は森に変わり、池は枯れ、道は荒れる。
その結果、鳥の姿もチョウの羽音も消えていく。
ある研究者は言う。
「管理されない自然は、
時間をかけて“閉じていく自然”になる」と。
確かに、人がいなくなれば風景は一度静まり返る。
だが、その沈黙は再生ではなく、
ゆっくりとした衰退の音かもしれない。
夜明けの田んぼに立つと、
かつてにぎやかだった草むらが、
いまはただ風に揺れているだけだ。
そこには荒れた自然ではなく、
“忘れられた自然”の匂いがする。
本当の共生とは、
人が自然を離れることではなく、
関わりながら残していくこと。
暮らしの中で生きものと呼吸を合わせ、
手を動かし、見守ること。
その積み重ねが、
静かな風景を生かし続けてきたのだ。
人が減っても、
その「関係」が残れば、
里山はまだ息をしていける。
その声をもう一度聞き取るために、
私たちは立ち止まって耳を澄ませる必要がある。
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