消えゆくいのちをどう守るか

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消えゆくいのちをどう守るか
― 環境省「種の保存法」見直しへ向けた検討会、始動 ―

日本の森や川、海には、静かに数を減らし続けている生きものたちがいる。
その姿は、市街地から遠い山奥に限らない。里山から干潟、都市の緑地まで、かつて当たり前だった小さな命がすでに戻れない地点に近づいている。

こうした現状を受け、環境省は2025年12月5日付で
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に係る在り方検討会(第2回)」 を開催すると発表した。
同法の改正(2018年)から5年が経過し、その施行状況を評価し、制度の改善点を洗い出すための場となる。


■ なぜ今「種の保存法」を見直すのか

日本列島は、生きものの宝庫である。
しかしその一方で、環境省のレッドリストには、哺乳類・鳥類・昆虫類・植物を含め約3,700種以上が絶滅の危機にあると記載されている。

とりわけ問題なのは、絶滅の原因がひとつではなく、複数の圧力が同時進行で生きものを追い詰めているという点だ。

・開発による生息地の消失
・外来種の侵入
・気候変動による分布の変化
・里山の管理放棄
・密猟や違法採取

1992年に制定された「種の保存法」は、これらに対処するための日本の基幹法だが、
社会環境や気候変動、農村環境の実態が大きく変わる中で、制度が抱える課題も可視化されつつある。


■ 今回の検討会で議論されるポイント

環境省が今回の検討会で示した焦点は、以下の3つに大きく整理できる。

① 現行制度の「実効性」の評価

2018年改正では、
・保護増殖事業の強化
・生息地保護区の仕組み改善
・取引規制の明確化
などが行われた。

だが、これが現場でどれほど機能しているかは地域により大きく異なる。

今回の検討会では、「机上の制度」と「現場の実態」の乖離がひとつの重要テーマになる。

② 希少種の「データアクセス」と情報公開の課題

検討会の一部資料は非公開扱いとなる。理由は、希少種の正確な分布が公開されると、
違法採取や盗掘につながる危険があるためだ。

しかし、研究者や自治体がデータにアクセスできなければ、
地域の保全計画が立てられないという矛盾もある。

国としてどこまで公開し、どこを秘匿すべきか——。
これは保全と透明性のあいだのジレンマであり、重要な争点になる。

③ 生息地保全の仕組みをどう再設計するか

動物や植物単体の保護だけでは、絶滅は防げない。
必要なのは「生息地という生態系全体」を守る仕組みだ。

今回の検討会では、
・保護区の明確化と拡張
・農地・里山との共存の在り方
・民間地を含めた保全協力
などが議論される可能性が高い。


■ 変わるのは「制度」だけではない ― 生きものと暮らしの未来へ

法律の見直しは、ただの行政作業ではない。
それは、私たちがこれからどんな風景の中で暮らしていくのか、
その選択に関わる問題でもある。

希少なチョウが飛ぶ里山、
絶滅危惧のカエルの声が残る湿地、
海辺の干潟に群れをつくる小さな貝類。

こうした自然は、たった一度失われると二度と戻ってこない。

だからこそ、種の保存法の議論は「行政の専門テーマ」ではなく、
社会全体で共有すべき未来の話題として扱う必要がある。


■ まとめ ― 今回の見直しは“静かな転換点”になる

今回の検討会は、制度の小さな修正に見えるかもしれない。
しかし、その背後には、次のような大きな流れがある。

・失われつつある生態系をどう守るか
・地域社会と自然保護をどう両立させるか
・科学的データと保全上の秘密をどう扱うか

法律が変われば、保護区のあり方も、研究の進め方も、地域の風景も変わる。
その最初の一歩となるのが今回の検討会だ。

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― 日本の自然と制度の“これから”を見つめる記録 ―

出典:環境省プレスリリース(2025年12月5日)ほか

📚 前回の記事 → 波打ち際の静かな観測記録― 環境省「磯・干潟モニタリング速報」が映す日本の海辺 ―

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