🌳シイカシ6:花と香り ― 春を告げる常緑 ―

シイカシシリーズ

春の森を歩くと、見えない花の匂いがする。
白くも赤くもない、けれど確かに“咲いている”匂い。
風の中に甘い気配が混じるとき、
森はもう次の季節へ向かっている。


🌿 見えない花の森

シイやカシの花は、目立たない。
細い房が枝から垂れ下がり、
風に揺れながら小さな虫たちを呼ぶ。
その房の中には無数の小花が並び、
香りを放って森に春を知らせる。

森全体がその香りで満たされると、
鳥や虫が集まり、光と音が動き出す。
南の森の春は、色ではなく匂いで訪れる


🐝 香りを運ぶ虫たち

照葉樹の花は、虫媒花。
風ではなく、小さなハナムグリやハナバチが
花粉を運ぶ。
香りはそのための言葉であり、
蜜は招きの贈り物。

シイやカシの森では、
春の一瞬が一年の命を決める。
虫と木の呼吸が合うわずかな時間、
森はまるで生きもののようにざわめく。


🌾 花のあと

受粉が終わると、花は静かに落ちる。
その下には、次の季節を待つ小さな実ができている。
ドングリになるまで、森はまた黙って育てる。
春の香りが消えるころ、
森はもう夏の支度をしている。


🌙 詩的一行

香りは、森が咲くという記憶。

🪵→ 次の記事へ(シイカシ7:実と動物 ― 森をつなぐ贈り物 ―)
🪵→ シイカシシリーズ一覧へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました