🌳シイカシ13：森の音 ― 光と影のあいだ ―

風の音でもなく、雨の音でもない。
南の森の音は、湿りをふくんでいる。
葉と葉が触れ、枝がゆれるたび、
低くやわらかな響きがひろがる。

🌿 音を吸う葉

照葉樹の葉は、音を吸う。
厚く、弾力のある葉が音をやわらげ、
森の中では音が遠くまで届かない。
鳥の声も、虫の音も、
湿った空気に包まれてすぐに溶けていく。

それは静けさではなく、
森が音を抱いているということ。
音は外へ出ず、森の中で反響を続ける。

昼の森では、光が差すたびに音が動く。
風が強く吹けば葉の層がざわめき、
雫が落ちれば土がやさしく応える。
照葉樹の森では、
音と光がいっしょに流れている。

その重なりが、
森の“呼吸”を感じさせるのだ。

夜になると、森の音はさらに低くなる。
虫の声が湿りの中に沈み、
遠くのフクロウの声が木々の影に響く。
音は、森の深さを測るもの。
静寂とは、音が消えた状態ではなく、
音が深く沈んでいる状態なのだ。

森の音は、静けさのかたちをしている。