― 海風が冷たくなったとき、北から灰の群れがやってくる ―
冬の海を見つめていると、遠くに黒と白の帯が見える。 それは波ではなく、スズガモの群れ。 無数の影が潮に乗り、潜り、浮かび、また沈む。 その姿は、まるで海そのものが呼吸しているようだ。
🌱 基礎情報 ― スズガモという鳥
分類: カモ科ハジロ属(Aythya marila)
全長: 約48cm 翼開長: 約80cm
分布: 北半球の亜寒帯で繁殖。日本では冬鳥として主に沿岸部に渡来。
特徴: オスは頭が黒く、背が淡灰色。メスは茶褐色で体が丸みを帯びる。
食性: 貝類・甲殻類・水生昆虫。潜水して湖底や海底から採餌。
鳴き声: 低く「ホォー」「ウァー」と鳴く。
識別ポイント: 体の丸み、白い翼帯、オスの灰色の背と黒い頭。
🌾目次
🌱 北から来る灰の群れ
スズガモは、北の海原からやってくる冬の旅人。 寒気が降りる頃、オホーツク海やベーリング海沿岸から日本の湾や湖に現れる。 外洋を渡りながら、潮流と風を読むように動く。 その群れの波打つリズムは、冬の海の象徴でもある。
夜明けの海に、灰色の影が広がっていく。 それは寒風の中で息づく命の群れだ。
🌿 外見と見分け方 ― 海の光に溶ける色
オスのスズガモは、黒い頭に灰色の背、白い脇。 陽光が射すと背の灰が銀色に変わる。 メスは茶色い体に白い頬斑があり、柔らかな印象を与える。
キンクロハジロと混群になることが多く、冠羽の有無で見分ける。 また、スズガモはより体が丸く、嘴の幅が広いのが特徴だ。
🔥 潜水と採餌 ― 貝を求めて潜る群れ
スズガモは潜水の名手。 一度潜ると15〜25秒ほど水中を泳ぎ、貝やカニを探す。 海底で嘴を使って砂を掘り返し、小さな貝を丸ごと飲み込む。 貝殻は胃の中で砕かれ、カルシウム源にもなる。
波間で一斉に潜る姿は圧巻。 海がまるで息を吸い込むように、静まり返る一瞬が訪れる。
💧 群れと行動 ― 波に浮かぶ社会
スズガモの群れは数十羽から数千羽に及ぶ。 彼らは波に身を任せ、風に合わせて位置を変える。 潜る個体、浮かぶ個体、見張る個体が自然と役割分担をしている。 その動きの統一感は、見事な生きた波のようだ。
一日のうちでも、朝夕は潜水に忙しく、昼間は休息を取る。 人の少ない港湾や砂浜に浮かぶ姿は、冬の静けさそのものだ。
🌊 観察地と季節の風景
- 🟢 東京湾・千葉県三番瀬 ― 冬の代表的群れの観察地。
- 🔵 石川県・金沢港 ― 沿岸に集まる群れを間近に見られる。
- ⚪ 北海道・風蓮湖・根室湾 ― 大群が渡来する北の海。
風に乗って浮かぶスズガモの群れ。 その灰色の影が海と一体になるとき、 冬の海は静かな生命の息づかいに満ちている。
🌙 詩的一行
波の下で眠る光、それがスズガモの群れの呼吸。
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