🌍 世界8:白い海の記憶 ― 北極アザラシが消えゆく氷の上で

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氷の国で進む静かな危機(2025年10月30日)

北の海に、静かな変化が起きている。
国際自然保護連合(IUCN)がこの秋に更新したレッドリストで、
北極の海氷に依存して生きるアザラシ3種が新たに絶滅危惧種に指定された。
ワモンアザラシ、クラカケアザラシ、ゴマフアザラシ――
彼らは氷の上で子を産み、休み、命をつないできた。

だが、いまその氷がなくなりつつある。
北極圏の平均気温は産業革命前よりおよそ4℃高く、
春の海氷の融解は数週間も早まった。
出産のための安定した氷が消えると、
母親は子を抱く場所を失い、
多くの仔アザラシが冷たい海に沈む。

IUCNの報告によれば、
氷上で暮らすアザラシの繁殖成功率は
この10年で30%以上低下しているという。
海氷が薄くなると、
彼らは陸地近くや流氷の端に追いやられ、
捕食者や人間活動の影響を受けやすくなる。

アザラシの存在は、北極の生態系そのものだ。
彼らが減れば、ホッキョクグマの食糧も減り、
海中の魚類バランスにも影響が及ぶ。
氷が解けることは、ただの「温暖化」ではない。
それは海の記憶が失われていくことでもある。

科学者たちは衛星観測を続けながら、
氷上の命を数える。
けれど、その静けさの中にいるアザラシたちは、
ただ「次の春」を待っているだけなのだろう。

白い海の上で、
かすかな息が立ちのぼる。
その呼吸を、私たちはまだ聞き取れるだろうか。

🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―

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