森の豊かさが、静かに薄れていく(2025年10月27日)
南米の北西に位置するコロンビア。
赤道直下に広がるこの国は、
世界でも指折りの生物多様性を抱えている。
アマゾンの北端からアンデスの尾根、
太平洋岸の湿地にいたるまで、
数え切れないほどの生命が共に息づいてきた。
けれどその森が、いま静かに削られている。
政府の統計によれば、2024年に失われた森林は約11万ヘクタール。
前年より43%多い。
数値だけを見れば、まだ広大な緑が残っているように思える。
けれど、森というのは“面積”ではなく“つながり”でできている。
一本の道が通るだけで、生態系は裂かれる。
違法伐採、鉱山開発、放牧地の拡大。
さらに近年は、干ばつによる火災がそれに拍車をかけている。
衛星画像で見ると、森の中を走る細い線が増えている。
それは道路ではなく、命の境界線だ。
その線の向こうで、森は再び閉じることができなくなる。
動物たちは移動の道を失い、
鳥は巣をかける木を選べなくなり、
川は濁流となって森を削っていく。
そのすべてが連鎖し、
「森の沈黙」が少しずつ広がっていく。
だが、この国の人々もまた、森の中で生きている。
コーヒー農家、先住民の集落、研究者や子どもたち――
彼らの多くは、森を切る者であり、守る者でもある。
その矛盾の中で暮らすということは、
生きることそのものが選択であり、祈りでもあるのだろう。
世界はコロンビアを「緑の国」と呼ぶ。
けれどその緑が揺れるたび、
人もまた、自分の居場所を問われている。
森を守ることは、遠い国の話ではない。
それは、まだ見ぬ静かな命たちと
この星を共有するという約束の記録だ。
🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―🌎前回の記事→氷の島に舞う影 ― アイスランドで初めて確認された蚊
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