光にさらされた小さな宇宙

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光にさらされた小さな宇宙
― 写真を撮られることで消えていく、インドの“銀河カエル” ―(2025年12月)

暗い森の床に、
夜露が残るころ。

星を散らしたような模様をもつ、
小さなカエルが姿を現す。

インド西ガーツ山脈に生息する、
通称「銀河カエル(galaxy frogs)」と呼ばれる両生類だ。

だが今、
この“小さな宇宙”は、
急速に見えなくなりつつある。

■ 数が減ったのは、密猟でも開発でもなかった

このカエルの減少を報告したのは、
学術誌Herpetology Notesに掲載された研究だ。

研究者たちが指摘した主な要因は、
気候変動に加えて、
人間による写真撮影行為だった。

観光客や自然写真家が、
夜間に森へ入り、
フラッシュやライトを使って個体を探す。

それは、
悪意のない行動だった。

だが、
このカエルにとっては、
繁殖・行動・隠れる時間を奪う干渉になった。

■ 「見る」ことが、生存条件を壊すとき

銀河カエルは、
特定の湿度と気温、
夜の暗さに強く依存している。

そこへ、
繰り返し人の光が入り込むと、
行動パターンが崩れる。

研究では、
かつて確認されていた場所で、数個体しか観察できなくなったことが報告された。

捕らえられたわけでも、
森が伐られたわけでもない。

ただ、
「見られすぎた」だけだった。

■ 観光と保全の境界線

インド西ガーツは、
世界的な生物多様性ホットスポットとして知られる。

その評価が高まるほど、
人は森へ入り、
希少な生き物を探す。

だが、
「発見されること」自体がリスクになる生き物もいる。

銀河カエルは、
その代表例だ。

■ 写真は記録か、干渉か

自然写真は、
保全意識を高める力を持つ。

だが同時に、
被写体に近づきすぎれば、
生態そのものを変えてしまう

この研究が示したのは、
「善意」と「影響」が、
必ずしも一致しないという現実だった。

■ 見えないまま守る、という選択

研究者たちは、
今後、
夜間観察の制限や、
撮影ガイドラインの必要性を指摘している。

記録することと、
距離を保つこと。

銀河カエルの減少は、
「自然を知る方法そのもの」を問い直す事例でもある。

見えないからこそ、
続いていく命がある。

🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 見られることで壊れる、生態の境界 ―

出典:Herpetology Notes(研究報告)/People.com(一般報道)

🌎前回の記事→ 洞窟に隠れる海の影― 観光の海で生き延びる、地中海モンクアザラシ ―

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