海の光が消えていく日
― アフリカペンギン、餓死6万羽の背後にあるもの ―(12月5日)
南アフリカ沖の海で、ひとつの鳥が静かに数を減らしている。
その名は African Penguin(アフリカペンギン)。
かつては海岸を黒い影が埋め尽くしたが、今やその姿は細い線のようになった。
2025年、研究者たちは衝撃的な数字を発表した。
過去数十年で、およそ6万羽が餓死していたというのだ。
そしてその死の多くは、気候変動と海洋環境の変化によって引き起こされていた。
最新の分析結果は、地球温暖化が「海の食卓」そのものを揺らしている現実を示している。
■ 餓死の理由 ― 消えたイワシと海の空白地帯
アフリカペンギンにとって、イワシ(sardine) は命を支える主食だ。
ところが、この40年ほどのあいだに、南アフリカ沖ではイワシが激減した。
研究チームは、イワシ資源の崩壊がペンギンの大量死と密接に結びついていると示した。
理由は複雑だが、中心にあるのは気候変動である。
- 海水温の上昇により、イワシの分布が南へ移動
- 暖かい海はプランクトンの発生を乱し、餌の連鎖が崩れる
- 海流の変化でイワシが沿岸から離れる
そこへ大量漁獲が重なり、海は広いのに、どこにも餌がない状況が生まれた。
ペンギンたちは、ヒナを残したまま遠く沖へ向かう。
しかし、戻るころにはヒナの体力は尽き、巣には静けさだけが残っている。
■ 海の食物網の崩壊 ― ペンギンだけの問題ではない
今回の研究は、単に「ペンギンが餓死した」という話ではない。
海洋生態系の基盤となる食物網(food web)が揺らいでいることを示す深刻な警告でもある。
イワシは、海鳥、アザラシ、イルカなど、沿岸生態系で多くの生き物に食べられる。
小さな魚が消えれば、海の上も下も連鎖的に弱り、やがて「命の空白地帯」が生まれる。
研究者は語る。
「これはペンギンの問題ではない。海そのものが変質している。」
気候変動は、海の温度・塩分・流れ・季節性をゆっくりと書き換える。
その変化は魚の群れを動かし、生き物たちの時間を乱し、繁殖のリズムを崩していく。
■ 6万羽が失われた背景 ― ヒナを育てられない親たち
餓死は、成鳥だけの問題ではない。
繁殖期、親鳥はヒナのために餌を探して海に出る。
しかし今では、餌場が遠くなりすぎて、
巣に戻るころにはヒナが力尽きているという例が増えた。
海が変わるということは、
「親がヒナを育てられなくなる」という、
鳥類にとって最も深刻な影響として現れる。
南アフリカの保護団体は警告する。
「このままでは、アフリカペンギンは10年以内に野生絶滅する可能性がある。」
■ 海を守るために ― 漁獲と気候、そして未来の話
アフリカ沿岸の海では、イワシ漁と保全活動の調整が急務になっている。
産卵期の漁獲制限、保護海域の見直し、漁業者と保護団体の協力――。
だが本質的には、気候変動そのものが海の変化を引き起こしている。
海の温度を安定させないかぎり、イワシは戻らず、ペンギンの未来も開けない。
海鳥の減少は、海の健康状態を映す鏡でもある。
ペンギンが消えるということは、海の生命力が弱っているということだ。
波打ち際を歩くペンギンの姿は、海の豊かさの象徴だった。
いま、その姿が途切れようとしている。
🌍 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 揺らぐ海と命の連鎖を見つめる観察記 ―出典:The Guardian “60,000 African penguins starved to death after sardine numbers collapsed”(2025年)ほか
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