光なき深海に息づく「化学の森」(2025年7月30日)
太平洋北部の深い海の底で、
太陽の光を知らない生命たちが見つかった。
アリューシャン海溝の水深およそ9000メートル――
そこは人類がほとんど足を踏み入れたことのない世界だ。
米国海洋大気庁(NOAA)と日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)の合同調査チームが、
化学物質をエネルギー源として生きる群集を発見した。
硫化水素やメタンを利用してエネルギーを作り出す微生物――
それを食べる貝やエビ、ゴカイなどが層をなし、
まるで「逆さまの森」のような光景が広がっていたという。
太陽光も植物も存在しないこの環境で、
生命は化学の光を頼りに生きていた。
研究者はこの発見を「地球の生命誕生の鍵」と位置づける。
そして、この構造は地球外生命探査――
エウロパやエンケラドゥスの氷下海とも関連があると指摘する。
調査を率いたリチャード・マッコネル博士は語る。
「この場所は、太陽のない“もう一つの地球”だ。
生命は光だけに頼っていない。」
この遠征「DEEP PACIFIC」は、
無人潜水艇(ROV)と自律型潜水探査機(AUV)を組み合わせ、
化学センサーと高精度カメラで生態を観測した。
映像には、白い外殻をもつ貝が並び、
細菌の膜が岩肌を覆う幻想的な光景が映っていた。
地球の底で、生命は静かに続いている。
それは、私たちがまだ知らない“もう一つの自然”の姿。
光の届かない海の闇にも、
確かに息づく命がある。
その白い群れの一つひとつが、
地球の未来を照らす小さな灯りなのかもしれない。
🌏 せいかつ生き物図鑑・世界編
― 変わりゆく地球を見つめる観察記 ―出典:NOAA/JAMSTEC/Reuters/Nature Ecology
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