🌽トウモロコシ10:子実の形成 ― 粒が育つメカニズム ―

トウモロコシシリーズ

受粉の時期が過ぎると、畑の風景は一見静かになる。しかし、その内部では、目には見えない非常に複雑な成長プロセスが進んでいる。花粉が絹糸を通って受精した瞬間から、ひとつの粒は“子実”としての道を歩き始め、糖の蓄積、デンプン化、水分調節、胚の発達といった段階を経て成熟へと向かう。

穂に並んだ無数の粒は、すべてが独立した“小さな生命の器”であり、そのひとつひとつの形成過程が収量や品質を決めていく。ここでは、子実がどのように育ち、どのように穀物としての形を作っていくのかを見ていく。

🌽目次

🌾 1. 受精の成立 ― 絹糸から始まる粒の物語

花粉が絹糸に付着すると、花粉管が穂の内部へ伸び、胚珠へ到達する。ここで受精が成立すると、その部位がひとつの粒として成長を始める

  • 絹糸1本=粒1個:受粉していない絹糸は粒にならない
  • 花粉管の伸長:成長速度は環境に左右される
  • 初期段階:受精後すぐに細胞分裂が始まり、胚と胚乳の形成が進む

これが、規則正しく並ぶ“粒列”が生まれる最初のステップだ。

🍬 2. 糖の蓄積 ― 成長初期に進む甘さの形成

粒の成長初期には、光合成によって作られた糖が集中的に送られてくる。これは植物が“若い器官を優先して育てる”性質によるもので、粒はこの時期に大きく膨らむ。

  • 糖が主成分:初期は甘く、水分も多い
  • 胚乳の発達:柔らかい部分が増え、粒の基礎形が整う
  • 環境の影響:乾燥ストレスがあると大きさに影響

この段階の粒は、まだ“穀物”というよりも“果肉に近い構造”を持っている。

🔄 3. デンプン化 ― 粒が“穀物”へ変わる段階

成長が進むと、粒内部で蓄えられた糖が徐々にデンプンへ変わっていく。穀物らしい硬さや乾きは、このデンプン化が中心となって生まれる。

  • 糖→デンプンの転換:成熟するにつれ進行
  • 硬化の始まり:外側から順に固まっていく
  • 品種差:デント・フリント・ポップではデンプン構造が異なる

スイートコーンはこの糖→デンプン転換が遅いため、食用として“甘いまま食べられる時期”が生まれている。

💧 4. 水分調節と成熟 ― 乾燥が穂を整える

粒が成熟に向かうにつれ、水分は徐々に抜け、デンプンの結晶構造が安定していく。最終的には穀物として保存や加工ができる状態まで乾燥が進む。

  • 水分の低下:成熟期には大幅に減少する
  • 層構造の明確化:胚乳・胚・種皮がはっきりする
  • 成熟のサイン:黒層(black layer)が形成され、粒の成長が止まる

こうして整えられた粒は、保存・粉砕・加工に適した“穀物としての完成形”となる。

🌙 詩的一行

ひと粒ひと粒が、静かな畑の奥でゆっくりと実りの形をつくっていた。

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