【分類】ハチ目(膜翅目)ハナバチ科 ミツバチ属(ニホンミツバチ)
【学名】Apis cerana japonica(アピス・セラナ・ジャポニカ)
【体長】働き蜂:10〜12mm/女王蜂:17〜19mm/雄蜂:14〜16mm
【群勢】約1〜2万匹(セイヨウミツバチより小規模)
【行動半径】約1〜2km
【寿命】働き蜂:夏約30日前後/冬は数か月
【分布】日本全土(北海道南部〜沖縄)
【巣の特徴】樹洞・岩の割れ目・家屋の軒下や床下など、自然の隙間に巣を作る
【食性】花の蜜・花粉(在来植物・里山の花との相性が高い)
【季節】春〜初夏に群勢拡大、秋に蓄え、冬は巣内で越冬
【性質】慎重・逃去性あり/外敵に対して「熱殺蜂球」で防御する
【病害】病原体・ダニ類に対して比較的耐性が高いとされる
【人との関わり】古くから山里で「和蜂」として飼われ、和蜂蜜は希少品として親しまれてきた
― 山の匂いと家の陰を行き来しながら、日本の風景とともに生きてきたミツバチ ―
ニホンミツバチ(Apis cerana japonica)は、日本の気候と植生の中で長い時間をかけて暮らしてきた在来種だ。
セイヨウミツバチに比べて群れは小さく、慎重で、巣の環境が気に入らなければ巣ごと移動する。
それでも山里や里山の花を巡り、静かに暮らしを支え続けてきた。
🐝目次
- 🌲 ニホンミツバチとは ― 日本に根づいた在来種
- 🧭 性質と社会性 ― 慎重さと「逃去」という選択
- 🏡 巣とすみか ― 樹洞と家の隙間に住む蜂
- 🌼 日本の植物との関係 ― 多様な花を巡る力
- 🔄 セイヨウミツバチとの違い ― 生き方・蜜・飼い方
- 🍯 和蜂蜜と山里の文化 ― 混ざり合う季節の味
- 🌙 詩的一行
🌲 ニホンミツバチとは ― 日本に根づいた在来種
ニホンミツバチは、アジアミツバチ(Apis cerana)の日本亜種で、日本の山・里・町に広く分布している。
本来は野生で暮らしてきた蜂で、人が巣箱に招き入れて飼う「和蜂飼い」は、野生との距離感を保った養蜂といえる。
・野生群が各地の樹洞や家屋に巣を作る
・セイヨウミツバチより体が少し小さく、色もやや暗い
・環境への適応力が高く、山間部や都市近郊にも生息
日本の里山の風景に、静かに溶け込んで生きてきたミツバチだ。
🧭 性質と社会性 ― 慎重さと「逃去」という選択
ニホンミツバチの性質を語るうえで欠かせないのが、慎重さと逃去性だ。
巣箱や巣の環境が気に入らなければ、群れごと巣を放棄して別の場所へ移動してしまう。
・振動や匂い、騒音などの変化に敏感
・ストレスがかかると巣を離れてしまうことがある
・その一方で、環境が合えば長く同じ場所で暮らす
外敵への防御では、スズメバチに対する「熱殺蜂球」が有名だ。
多数の蜂が外敵を取り囲み、筋肉を震わせて体温を上げ、内部を高温にして倒す。
この行動はセイヨウミツバチよりも巧みだとされ、日本の捕食者に対して磨かれた防御といえる。
🏡 巣とすみか ― 樹洞と家の隙間に住む蜂
ニホンミツバチは、自然の隙間を見つけるのが上手い蜂だ。
山の古い木の洞(うろ)、岩の割れ目、古民家の軒下や壁の中、床下など、外から見えにくい場所を好んで巣を作る。
・巣は縦に長い板状の巣板がいくつも垂れ下がる形
・外敵や雨風を避けられる場所を選ぶ
・人家に入った群れは、壁の中で何年も暮らすこともある
巣箱で飼う場合も、最初に気に入ってもらうまでが難しく、
巣箱の位置・向き・周囲の植生などを慎重に選ぶ必要がある。
🌼 日本の植物との関係 ― 多様な花を巡る力
ニホンミツバチは、花を選ばない訪花性を持っている。
サクラ、レンゲ、シロツメクサ、ヤマツツジ、クリ、ソバ、野の小さな花……。
在来・外来を問わず、さまざまな花を巡りながら蜜と花粉を集める。
・細い花や筒状の花にも入りやすい
・里山から庭先まで、幅広い環境を利用できる
・季節によって訪れる花が少しずつ変化していく
そのおかげで、巣に蓄えられる蜜には、
季節ごとに違う花の香りが折り重なっている。
🔄 セイヨウミツバチとの違い ― 生き方・蜜・飼い方
同じ「ミツバチ」でも、ニホンミツバチとセイヨウミツバチは生き方がかなり違う。
・群勢と採蜜量
セイヨウミツバチ:大きな群れで、商業レベルの採蜜ができる。
ニホンミツバチ:群れは小さめで、採れる量は少なめ。
・定着性
セイヨウ:巣箱に定着しやすく、移動・管理もしやすい。
ニホン:環境が合わなければ逃去しやすく、「飼う」というより「来てもらう」感覚に近い。
・蜜の性質
セイヨウ:単一の花を狙った「レンゲ蜜」「アカシア蜜」など、量を絞って採りやすい。
ニホン:さまざまな花が混ざる「百花蜜」に近く、香りが強く色も濃い。
・病害と環境への強さ
セイヨウ:病害に弱く、薬剤やこまめな管理が必要。
ニホン:野生で暮らしてきた歴史があり、病害に比較的強いとされる。
ニホンミツバチは、効率ではなく、
「その土地とともに暮らす蜂」としての顔がはっきりしている。
🍯 和蜂蜜と山里の文化 ― 混ざり合う季節の味
ニホンミツバチの蜜は、「和蜂蜜(わばちみつ)」として知られる。
採れる量は少なく、市販の蜂蜜よりもずっと濃く、香りが強いことが多い。
・一つの花ではなく、季節ごとの花が少しずつ混ざる
・同じ場所でも年によって風味が変わる
・採蜜量が少なく、手間もかかるため希少
古くは山里で、丸太や木箱を使って和蜂を飼い、
家族で少しずつ蜂蜜を分け合ってきた。
そこには「商品としての蜂蜜」よりも、
その土地の季節を味わうための蜜という感覚が強く残っている。
🌙 詩的一行
山と家のあいだを行き来しながら、小さな群れはその土地の季節を少しずつ集めている。
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