🐟マグロ16:マグロと環境問題

マグロシリーズ

― 資源と海の未来 ―

マグロの海は、いま静かに痩せている。
潮の流れが変わり、群れの数が減り、
昔の漁場ではもう魚影が薄い。
海は無限ではなかった。
人はそのことを、ようやく思い出そうとしている。


🌾目次


🌱 資源減少の現実 ― 数の減る海

クロマグロの資源量は、20世紀末に最盛期の数%まで減少した。
乱獲・幼魚の捕獲・海水温の上昇――
複数の要因が重なって、海のバランスが崩れた。
日本近海でも、かつての定置網に入る数は激減。
海の豊かさは“静かに減る”という形で失われていく。


🌿 乱獲と国際管理 ― ICCATとTACの仕組み

マグロは国境を越えて泳ぐ魚だ。
そのため資源管理も、国を越えて行わなければならない。
ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)や
TAC(総漁獲可能量)制度によって、
漁獲量の上限が設定され、資源の回復が図られている。
だが、経済と食文化が絡むこの問題に、
「どこまで獲り、どこで止めるか」の線引きは難しい。


🔥 完全養殖の挑戦 ― 近大マグロの誕生

2002年、近畿大学が世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した。
卵から成魚までを人工環境で育てるという、
“海を再現する科学”の到達点。
天然の稚魚を獲らずに育てることができるため、
資源保全の大きな希望とされている。
ただし、餌の確保や遺伝的多様性の維持など、課題も残る。


🌊 餌と環境負荷 ― “育てる海”の課題

養殖には多くの餌が必要だ。
その多くは、他の魚から作られる魚粉や魚油。
一匹のマグロを育てるために、数倍の小魚が必要になる。
また、排泄物や残餌が海底に溜まり、
環境への影響も懸念されている。
最近では植物由来の飼料や循環型水槽が開発され、
“育てる海”の負担を減らす研究が進んでいる。


⚓ 共に生きる未来 ― 技術と祈りのあいだで

マグロを守るということは、
人の欲を制御するということでもある。
技術が進めば、捕ることも育てることも可能になる。
けれど、海を使うたびに“返す心”がなければ、
未来の海は痩せてしまう。
科学と祈り、その両方が必要な時代に、
人は今、立っている。


🌙 詩的一行

未来の海は、技術ではなく、やさしさで育てるもの。


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