― 鳥たちは、帰る場所を覚えている ―
かつて日本列島には無数の湿地があった。
渡り鳥たちの楽園であり、命の循環を支える「水の森」だった。
だが、開発と土地利用の変化により、その多くが失われた。
マガモが帰るべき場所は、年々少なくなっている。
それでも、人の手によって“失われた湖”を取り戻そうとする動きがある。
ここでは、湿地の現状と再生の最前線を見ていこう。
🌾目次
🌱 失われた湿地 ― 日本の水辺の変化
戦後、日本の湿地は農地化と都市化によって急速に姿を消した。
特に低地の沼や内湾干潟は、宅地や工業地へと転用され、
1950年代から70年代にかけての開発で、その約6割が消滅したといわれる。
この変化は、マガモをはじめとする多くの渡り鳥にとって致命的だった。
湿地は単なる「水たまり」ではない。 微生物から魚類、昆虫、植物、そして鳥まで、 数百種の命を支える“水のネットワーク”だ。 それが失われると、生態系全体のバランスが崩れる。
🌿 渡り鳥の減少とマガモの危機
マガモは現在も全国で見られるが、個体数は地域差が大きい。
特に越冬地として利用されていた内陸湿地の減少により、
群れの規模が小さくなった地域もある。
また、温暖化の影響で北方での越冬個体が増え、
日本への渡来数が微減しているとの報告もある。
マガモの存在は、湿地の健全性を測る“バロメーター”。 その姿が減るということは、湿地そのものが衰えているというサインでもある。
🔥 保全の現場① 片野鴨池(石川県)
石川県加賀市の片野鴨池は、日本で最も古い渡り鳥保護区のひとつ。
江戸時代から“鴨猟場”として管理されてきた場所が、
現在では「ラムサール条約登録湿地」として保全されている。
冬には1万羽以上のマガモ・オナガガモ・ヒドリガモが飛来し、
観察舎からその姿を間近に見ることができる。
特徴的なのは、伝統的な「坂網猟」が今も残ること。 人が鳥を知り、鳥を守る知恵が、現代の保全にも生きている。
💧 保全の現場② 渡良瀬遊水地(関東平野)
関東地方最大級の湿地「渡良瀬遊水地」は、
かつて公害の舞台となった谷中村の跡地でもある。
洪水調節池として整備される一方、現在では多様な野鳥が戻り、
マガモやヨシガモの越冬地として知られている。
草原再生や水位調整など、人の手による“動的保全”が行われ、 市民ボランティアによる観察・外来種除去も活発だ。 人と自然が協働する「再生型湿地」として、全国のモデルとなっている。
🌊 人と地域がつくる再生の輪
湿地の保全は、行政だけでは成り立たない。
地域住民・学校・観察者・NPOが連携し、
「守る」「伝える」「見せる」を循環させることが鍵となる。
観察会や環境教育、再生ボランティアは、
単なるイベントではなく“次の渡りへの橋渡し”でもある。
マガモが帰る場所を残すこと――それは人間の記憶を残すことでもある。
🌙 詩的一行
風が戻るたび、池もまた息を吹き返す。
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