🦆マガモ10:ハシビロガモ ― 生態と採餌行動:しゃもじくちばしのカモを追う

マガモシリーズ

― 水面をすくう、しゃもじのようなくちばし ―

静かな池で、円を描くように群れが回る。
その中に、ひときわ不思議なくちばしを持つカモがいる。
ハシビロガモ――名の通り“幅広いくちばし”を持つカモ。
水面をすくうように餌を採るその姿は、まるで水をこすり取る職人のようだ。
ここでは、ハシビロガモの特徴・識別ポイント・採餌行動・生態を詳しく紹介する。


🌾目次


🌱 基礎情報 ― ハシビロガモという鳥

分類: カモ科マガモ属(Spatula clypeata)
全長: 約50cm 翼開長: 約80cm
分布: ユーラシア・北アメリカなど北半球全域。日本では冬鳥。
特徴: 幅広いくちばしと、オスの緑頭・白胸・栗腹が特徴。
食性: 水中のプランクトン・小動物・植物片を濾し取る。
繁殖: 北方で繁殖、日本では繁殖しない。
鳴き声: 「ガッ」「クァッ」と低い声。
識別ポイント: 幅広く平たいくちばし、ぐるぐる採餌行動。

ハシビロガモはマガモ属の中でも特異な形態を持つ。
くちばしの内側には細かい“櫛状の構造”があり、水中の微生物や植物片を濾して食べる。
そのため「自然界のストレーナー(濾し器)」とも呼ばれる。


🌿 特徴と識別ポイント ― しゃもじ型のくちばし

オスの頭は金属光沢のある緑色、胸は白く、腹は栗色。
くちばしが非常に広く、横から見るとしゃもじのような形をしている。
メスは全体が褐色で地味だが、同様にくちばしが幅広いのが特徴。
群れの中でも「横顔が平たく見える」個体がいれば、ハシビロガモの可能性が高い。

✅ 見分けポイント:
・オスは緑の頭と白胸+栗腹の配色。
・メスもくちばしが広く、頭がやや小さい。
・くちばしの内側に櫛状構造。
・採餌中は円を描いてぐるぐる回る。


🔥 採餌行動 ― 水を濾すカモの技

ハシビロガモは潜らずに、水面の餌を“濾し取る”タイプのカモ。
くちばしの内側にある櫛(ラメラ)を使って、水だけを吐き出しながら餌を口に残す。
このため、池の上で円を描きながらぐるぐると回る「回転採餌」がよく見られる。
群れで協力して水をかき回し、浮いたプランクトンを効率よく採ることもある。

この採餌法は他のマガモ属には見られず、ハシビロガモの最大の特徴。
一見地味だが、よく観察すると緻密で合理的な行動様式を持っている。


💧 生態と分布 ― 群れを作る水面のフィルター

北半球の広い地域に分布し、日本では冬鳥として飛来。
本州・九州を中心に、湖、ため池、河川、湿地で観察される。
秋に渡来し、春には北方へ帰る。
他のカモよりやや小柄で、体重も軽いため、水面にふわりと浮かぶ姿が印象的。
マガモやヒドリガモの群れに混ざって行動することも多い。


🌊 観察のコツと見どころ

観察の際は、水面でゆっくり回る群れを探そう。
双眼鏡でくちばしの形を見ると、幅広さが一目瞭然。
特に朝夕の採餌時間帯は行動が活発。
風の少ない池では、水面の円形の波紋で居場所を見つけやすい。
光が当たると、オスの頭が金属的に輝くのも魅力だ。


🌙 詩的一行

くちばしは水を描き、円は静けさを写す。


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