🧫 基礎情報:清酒酵母
- 分類:主に Saccharomyces cerevisiae 系統
- 特徴:低温でも働きやすい/香り成分(吟醸香)の生成能力/酸に比較的強い
- 主な株:協会6号・7号・9号・10号・14号・1801号など
- 発酵温度:およそ10〜18℃。吟醸造りでは10℃前後の低温長期発酵。
- 香りの傾向:カプロン酸エチル(リンゴ香)/酢酸イソアミル(バナナ香)などを生成
- 利用:日本酒(吟醸酒・純米酒・本醸造など全カテゴリ)、研究用途
- 備考:日本醸造協会による“協会酵母”の存在が世界的にも珍しい制度として知られる。
― 冷たい酒母の中で、ひっそりと糖を分解しながら香りを生み出す細胞がいる。 それが清酒酵母だ。低温の環境でもじっくり働き、米と麹がつくる糖をアルコールへ変えながら、同時にリンゴやバナナのような吟醸香を生み出す。
日本酒の味わいを決めるのは水や米だけではない。その奥には“香りの設計者”である酵母がいる。協会酵母の歴史は百年以上。日本中の酒蔵が同じ酵母を共有しながら、それぞれの仕込み水や気候、麹の違いによって微妙に異なる味わいを生み出してきた。
ここでは、清酒酵母の特性、低温長期発酵の仕組み、吟醸香の生成、そして協会酵母が築いた文化的役割を見ていく。
🧫目次
- 🌾 1. 清酒酵母の特徴 ― なぜ日本酒に向いているのか
- ❄️ 2. 低温長期発酵 ― ゆっくり働く酵母の時間
- 🍎 3. 吟醸香の生成 ― リンゴ香・バナナ香の秘密
- 🏛️ 4. 協会酵母と文化 ― 日本酒づくりを支えた仕組み
- 🌙 詩的一行
🌾 1. 清酒酵母の特徴 ― なぜ日本酒に向いているのか
清酒酵母は、同じセレビシエ系でも“日本酒に特化した性質”を持っている。
- 低温で働きやすい:10〜15℃で安定した代謝が可能
- 酸耐性:酒母の強い酸性環境に耐える能力
- 香り成分生成:吟醸香のもとになるエステルを豊富に生む
- 雑味成分が少ない:スッキリと透明感のある酒質をつくる
これらの特性により、米と麹の持つ甘味やうま味を壊さず、 清らかな酒質を作り上げることができる。
❄️ 2. 低温長期発酵 ― ゆっくり働く酵母の時間
日本酒づくりの特徴は「低温でゆっくり発酵させること」。 清酒酵母はこのリズムに見事に合っている。
- 10℃前後のゆっくりした代謝:香りを壊さず、雑味を抑える
- 長期発酵:数週間〜1か月以上の発酵工程
- 麹との連携:麹がつくる糖を安定的に利用
静かなタンクの中で、酵母は気泡をゆっくりと立ち上らせながら、 透明感のある酒質を少しずつ形にしていく。
🍎 3. 吟醸香の生成 ― リンゴ香・バナナ香の秘密
清酒酵母がつくる香りは、吟醸酒の命とも言える。
- カプロン酸エチル:青リンゴのような香り
- 酢酸イソアミル:バナナのような柔らかな香り
- その他のエステル:果実感・透明感を演出
発酵温度・栄養・溶存酸素の量など細やかな条件によって香りが変化するため、 酒蔵ごとに“香りの設計”が行われている。
🏛️ 4. 協会酵母と文化 ― 日本酒づくりを支えた仕組み
清酒酵母を語るうえで欠かせないのが、日本醸造協会(協会酵母)の存在だ。
- 6号酵母:長野・真澄で分離された歴史的酵母
- 7号酵母:香りと安定性のバランスが良い
- 9号酵母:吟醸酒のスター。華やかな香りを生む
- 14号酵母:フルーティで現代的な香りの傾向
この制度により、全国の酒蔵が同じ酵母を共有しながら、 水・麹・気候の違いで酒質を分化させる独特の文化が根づいた。
🌙 詩的一行
静かなタンクの底で、香りの気配がゆっくりと育っていく。
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