🧫酵母10:ワイン酵母 ― 果実の糖と共に生きる種 ―

酵母シリーズ

🧫 基礎情報:ワイン酵母

  • 分類:主に Saccharomyces cerevisiae 系、他に野生酵母(Hanseniaspora、Brettanomyces など)
  • 生息環境:ぶどう果皮・樽・蔵内の空気・果汁表面
  • 特徴:果実由来の糖をよく利用/香り成分(エステル)生成が豊富/酸耐性が比較的強い
  • 発酵温度:12〜25℃。白ワインは低温、赤ワインはやや高温。
  • 主要株:培養酵母(ワインスターター)/蔵付き酵母/自然発酵混合酵母
  • 作用:アルコール発酵・香り生成・発酵速度の調整・複雑味の付与
  • 備考:ワインの“テロワール”(土地の個性)に大きく関与する微生物群。

― ぶどうを搾った果汁の表面で、静かに糖を分解し始める細胞がいる。 その小さな働きが、香り豊かなワインの誕生を導いていく。 ワイン酵母は、果実の糖をアルコールと香りへ変換する“果汁の職人”だ。

ワイン酵母は清酒酵母とは異なり、原料の味に大きく関わる。 白ワインでは爽やかな果実香を、赤ワインでは深みのある香りを、 ロゼでは柔らかなフルーツ香を生む。 その背景には、酵母ごとの代謝の違いや、蔵に住み着いた野生酵母の力がある。

ここでは、ワイン酵母の性質、自然発酵との違い、ワインの香りを作る仕組み、 そして“テロワール”と呼ばれる土地の個性に酵母がどう関わるのかを見ていく。

🧫目次

🍇 1. ワイン酵母の種類 ― 培養酵母と野生酵母

ワイン酵母とひとことで言っても、発酵に関わる酵母は多様だ。

  • 培養酵母:発酵力が安定し、狙った香りを出すスターター酵母
  • 蔵付き酵母:ワイナリーの樽や蔵内に定着した株
  • 野生酵母:果皮由来の Hanseniaspora、Brettanomyces など

実際の発酵では、これら複数の酵母がリレーのように働き、 ワインの複雑な香りと味わいを生み出す。

🔥 2. 発酵の仕組み ― 糖から香りが生まれる流れ

ワイン酵母は果汁に含まれるブドウ糖・果糖を分解し、 アルコールや香り成分を生み出す。

  • アルコール発酵:糖 → アルコール + CO₂
  • エステルの生成:果実香(リンゴ、洋梨、花のような香り)をつくる
  • 高級アルコール:複雑さと厚みを与える

温度管理によって香りのバランスが大きく変わり、 白は低温(12〜15℃)、赤はやや高温(20〜28℃)で発酵させることが多い。

🍷 3. 香りと味わい ― 白・赤・ロゼを形づくる働き

  • 白ワイン:柑橘・青リンゴ・花の香りを生み、透明感を出す
  • 赤ワイン:ベリー香、スパイス香、厚みを与える代謝産物
  • ロゼ:果実の軽やかさを活かすフレッシュな香り生成

同じぶどうでも、酵母が変わればワインの性格も変わる。 ワイン酵母は“味わいの設計者”としての役割を担う。

🌍 4. テロワールと酵母 ― 土地の個性を支える微生物

ワインの世界でよく語られる「テロワール」は、土壌や気候だけではなく、 酵母を含む微生物も重要な構成要素だ。

  • 果皮の微生物叢:地域によって酵母の分布が異なる
  • 蔵付き酵母:ワイナリー特有の香りの要因
  • 野生発酵:土地の特徴が強く現れる

つまりワイン酵母は、土地と葡萄と人をつなぐ“見えない仲介者”でもある。

🌙 詩的一行

果汁の奥で、小さな細胞が静かに香りの輪郭を描き始める。

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