― 森を動かす微かな流れ ―
夏の森で、幹の奥から甘い匂いが漂う。
そこに集まる羽音は、木が呼び寄せた命の合唱。
樹液は森の血であり、虫たちはその循環の担い手だ。
🪵 樹液の季節
夏、コナラの幹の一部が傷つくと、
そこから透明な液がにじみ出る。
それは木が内部の圧力を整えるための自然な現象。
甘い香りを放つその液体は、
森の生き物たちを呼び寄せる信号のようでもある。
カブトムシ、クワガタ、カナブン、蛾、ハチ。
夜になれば幹の一点に命が群がり、
樹液をめぐって音のない競争が始まる。
木はそれを拒まない。
彼らの体に花粉や胞子がつき、
やがて別の場所へ運ばれていく。
🪶 森の中の小さな連鎖
樹液を吸う虫を、コウモリや鳥が狙う。
その鳥の落とす糞が、森の養分になる。
虫たちの死骸も、地面に落ちて土に戻る。
すべてが微細な循環の中で繋がっている。
一本のコナラから流れ出すわずかな液が、
森全体の食物網を動かしている。
その一滴が、森のエネルギーの起点だ。
🍂 木の記憶
樹液を出した場所は、やがて固まり、
樹皮が再びその傷を覆う。
しかし木はその部分を忘れない。
次の年、同じ場所がまた柔らかくなることがある。
それは、木がかつて受けた傷を記憶しているから。
傷を受け入れながら、木は少しずつ形を変え、
森の時間を深く刻んでいく。
🌙 詩的一行
樹液は、木が森に語りかける声。
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