🌳コナラ7：ドングリの行方

森の中で、誰も見ていないところで、
小さな実が音もなく落ちる。
それを拾うもの、埋めるもの、忘れるもの。
森はそんな“うっかり”から広がっていく。

🌰 ドングリの力

コナラの実――ドングリは、森の命の塊だ。
一粒に詰まった栄養は、芽吹くためだけでなく、
動物たちの食料にもなる。
そのため、ドングリの豊作・不作は森全体の生き物に影響する。

ドングリが落ちると、地面の音が少し変わる。
乾いた音が土に吸い込まれ、
それをリスやカケスが聞きつけてやってくる。

リスは前足でドングリをつかみ、
地面の柔らかい場所を見つけて埋める。
冬のための貯えとして――
けれど、すべてを覚えているわけではない。
埋めた場所を忘れた実が、春に芽を出す。
その「忘れられた命」が、森の次の世代をつくる。

カケスもまた運び手だ。
嘴にドングリをくわえ、森の外へ飛び立つ。
数百メートル先の林や谷に運ばれた実が、
思いがけない場所で芽吹く。
こうして、森は少しずつ動いていく。

ドングリが芽を出すまでには時間がかかる。
秋に落ち、冬を越え、春にようやく根を伸ばす。
その間、雪に埋もれ、雨に洗われ、
森の湿度と温度がすべてを決める。

そして数十年後、
その若木が再びドングリを落とす頃には、
もうリスもカケスも別の世代になっている。
森は、世代を超えて同じ仕組みを繰り返す。
それは、時間の中で編まれる生命の網だ。

忘れられた場所から、森は始まる。