🌳コナラ4:花と花粉

コナラシリーズ

― 風に託す春 ―

春、森の上をうすい金色の霧が流れる。
それは花の匂いではなく、花粉の気配。
コナラは、音のない春に種を仕込む。


🌼 見えない花の季節

コナラの花は目立たない。
葉が開くのとほぼ同時に、枝先から細い房(雄花序)が垂れ、
雌花はごく小さく、枝の付け根にひっそりとつく。
色も香りも控えめ――代わりに、がすべてを運ぶ。


🍃 風媒のしくみ

雄花から放たれた花粉は、森の空気に混ざって漂う。
雨の前は落ち、乾いた日には遠くまで飛ぶ。
雌花の柱頭は粘りを帯び、
通り過ぎる花粉の偶然を受け止める。
虫に頼らない代わりに、
コナラは量で勝負する――花粉の雨が春の森の合図だ。


🌱 実りへの時間

受粉がうまくいった雌花は、ゆっくりと膨らみ、
やがて翌秋にドングリとなって熟す。
春の一瞬の確率が、
一年半かけて実の形になる。
風が運んだ見えない出会いが、
里山の秋の重さを決めている。


🧭 森の同期

花粉がよく飛ぶ年は、森全体の開葉も早く、
逆に寒の戻りが強い年は房が短くて花粉が少ない。
コナラの花は、気温・乾湿・風に鋭敏だ。
森は個々の木の集まりではなく、
春の空気でゆるく同期するひとつの体のように咲く。


🌙 詩的一行

音のない春に、森は遠くで出会っている。


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