🌳コナラ26:炭焼きの記憶 ― 火を守る森 ―

コナラシリーズ

― 炎のあとに残るもの ―


冬の山で、かすかな煙が上がる。
小屋の中には、ゆっくりと燃える黒い木。
炭焼きの火は、森の心臓の鼓動のようだった。


🪵 炭を生む森

かつて日本の里山では、コナラやクヌギの木が燃料の中心だった。
伐り出した木を炭焼き窯に詰め、火を弱く通して数日間焼く。
火の強さ、空気の入り方、湿り気――
そのわずかな加減が炭の質を決めた。

森を伐っても、根は生きている。
数年後にはまた新しい芽が伸び、
再び炭になる木へと育つ。
そうして人は、森を壊さずに火を得てきた。


🔥 炎の記憶

炭焼き小屋の夜は静かだった。
風の音と、火の息づかいだけが響く。
炎が消えるころ、窯の中では木が黒い命に変わっている。
炭は、森の時間を圧縮したもの。
一本の木が百年かけて集めた光と風が、
いま手のひらの中で静かに燃えている。


🌿 火と暮らし

炭は料理を支え、鍛冶を支え、冬の家を温めた。
その灰は畑を肥やし、器を焼く釉薬にもなった。
人の生活のどこをたどっても、
森の影が寄り添っていた。

やがてガスや電気の時代になり、
炭焼き小屋は山の奥に取り残された。
けれど黒い壁や崩れた窯跡の中には、
まだ火の匂いが残っている。


🌙 詩的一行

火が消えても、森の息は続いている。


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