🦚キジ1：キジという存在 ― 日本の野に暮らす鳥 ―

― 朝の野を歩いていると、草の向こうからひそやかな羽音がする。色彩の強い姿とは裏腹に、キジは静けさの鳥だ。人の暮らしの近くで、気づかれぬまま息づき、野と里のあいだを歩き続けてきた ―

キジは日本の里山を象徴する鳥のひとつである。鮮やかな体色の雄、草陰に溶け込む雌、その暮らし方は“土地に寄り添う鳥”そのものだ。農地、河川敷、林縁――人の生活空間のすぐそばで生きながら、野の静けさを失わない。

🦚目次

雄のキジは、日本の鳥の中でも際立つ色彩を持つ。深い緑、青の輝き、赤い顔。これらはすべて、草原で目立つためではなく、種としての長い営みの中で選ばれてきた特徴だ。

鮮やかさと地味さ、その対比がキジの暮らしをよく表している。

キジは“森でもなく、街でもない場所”を好む鳥だ。畑や草地、河川敷など、開けた土地に隣接した環境が暮らしの中心になる。

人の生活圏と重なりやすいが、人の目が届きにくい場所にそっと身を置く。

キジは“飛ぶより歩く”鳥である。地上での生活が中心で、危険が迫ったときには素早い脚で草むらへ走り込む。

この“歩く生活”が、里山の生態系の中で独自の位置を与えている。

キジは古くから日本の暮らしと深く結びついてきた。農地に現れる姿、繁殖期の特徴的な鳴き声、季節を告げる気配――自然の移ろいを身近に伝えてくれる存在でもある。

身近でありながら、どこか静かな距離感を保つ鳥。それがキジである。

草の影を歩く足音が、里山の朝にそっと残っていく。