🦀蟹5:ケガニ ― 北の春を告げる毛の甲

カニ(海)シリーズ

― 北の海がゆっくりと温みはじめる頃、漁港に「毛ガニ」の名が並び始める。小ぶりだが身が詰まり、細かな毛に覆われた甲羅が特徴のカニだ。北海道やオホーツク海を代表する存在として、季節の移り変わりとともに親しまれている ―

ケガニは、冷たい海に適応した小型のカニで、甲羅の毛は保温と保護の両方の役割を持つ。見た目とは裏腹に動きが素早く、底を歩きながら雑食性の餌を探して暮らしている。ここではケガニの特徴、生態、文化を整理していく。

📘 基礎情報

  • 分類:節足動物門 甲殻亜門 十脚目 クリガニ科
  • 学名:Erimacrus isenbeckii
  • 分布:北海道沿岸・オホーツク海・三陸以北の冷水域
  • 生息環境:水深30〜200mの砂泥底(水温5℃前後)
  • 大きさ:甲幅8〜12cmほど
  • 食性:貝類、ゴカイ類、甲殻類、小動物などを食べる雑食性
  • 漁期:地域ごとに異なる(一般に冬〜春)

🦀目次

1. 毛に覆われた甲羅 ― 北の海への適応

ケガニの最大の特徴は、甲羅と脚に生えた細かい毛だ。この毛は冷たい海の中で体温を保つ「断熱材」の役割を持つと同時に、砂泥底での迷彩にもなる。

  • 甲羅の毛は断熱と保護の役割を兼ねる
  • 砂泥底に紛れやすい色と質感
  • 甲羅は比較的丸く、脚は太くて短い

丸みのある体型は、荒い潮流の中でも安定して歩くためのつくりだ。

2. 冷水域に生きるカニの暮らし

ケガニが暮らす北海道〜オホーツク海は、年間を通して水温が低い。水深30〜200mの砂泥底に多く、季節によって分布が浅場・深場へと移動する。

  • 冷水域に適応した低い代謝
  • 季節によって浅場に移動し漁獲が増える
  • 光量が少なく、視覚より触覚に頼る生活

冷たい海では生きものの動きが全体的にゆっくりになるが、ケガニはその中でも比較的活発な部類だ。

3. 動きと食性 ― 素早く歩き、底を探る

ケガニは底を歩きながら餌を探す底生捕食者だが、動きは見た目以上に素早い。雑食性で、底にいる小動物や貝類を中心に食べる。

  • ハサミで小動物をつまむように食べる
  • 死んだ魚介類も食べ、底の浄化に関わる
  • 警戒時は横方向に素早く逃げる

深海のズワイガニに比べると浅場寄りで活動的な生活スタイルを持つ。

4. 人とケガニ ― 季節を告げる味と文化

ケガニは北海道を代表する味覚として知られ、冬から春にかけて漁が盛んになる。地域によっては「春を告げるカニ」として季節の風物詩になっている。

  • 北海道・オホーツクを中心に親しまれる食材
  • 季節の移り変わりを知らせる存在
  • 資源管理のため漁期やサイズ規定が設けられている

小ぶりながら身が詰まり、カニ味噌の評価も高い。地域の市場や漁港の活気を支える存在でもある。

🌙 詩的一行

雪解けのころ、冷たい海から上がる小さな甲に季節の気配がふっと宿る。

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