― 海は、生きている ―
海は呼吸をしている。
満ちては引き、
寄せては返す。
そのたびに、砂は形を変え、
貝は裏返り、
海藻は光を受けて揺れる。
潮はただの水ではない。
それは、命そのものの拍動。
潮が満ちる夜、
岩の影で小さな卵がかえる。
孵化した幼生は流れに乗り、
遠く沖へと運ばれていく。
海の子どもたちは、
潮の行く先を知らないまま、
ただその温度と光に包まれて漂う。
波が砕け、
潮が引き、
命はまた海底へと還る。
消えることと生まれることが
同じ円の上にあるのだと、
海は静かに教えてくれる。
そしてカニたちは、
その円の内側を、
歩きつづけている。
潮が満ち、
命が動き、
また静けさが戻る。
それが、海の呼吸。
命のはじまりと終わりが、
ひとつの潮に溶け合っている。
次話:ズワイガニ ― 冬の深海に潜む王
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