― カニの子どもは、親の近くにはとどまらない。生まれた瞬間から海の流れに乗り、目には見えない“遠い旅”へ出ていく。流されることは弱さではなく、生き物として組み込まれたしくみだ ―
カニの幼生は、ゾエアと呼ばれる小さな姿で海に放たれる。自力で遠くへ泳ぐ力はほとんどなく、海流に運ばれることで成長に必要な場所へ移動していく。ここでは、幼生が“流される海”でどのように生きているのかを整理する。
🦀目次
1. ゾエア幼生とは ― カニの最初の姿
カニの子どもは、成体とはまったく違う姿で生まれる。
- 体は透明〜半透明で、細長い形
- 背中に棘(とげ)を持ち、浮きやすい形状
- 脚はまだ成体のようには使えない
- 自力での長距離移動は困難
この“ゾエア幼生”の姿は、海流に乗るための形ともいえる。
2. 海流に運ばれるしくみ ― “流される”のではなく“預ける”
幼生は強い泳力を持たないため、海の流れに乗って移動する。
- 海流に預ける:沿岸流に運ばれながら成長する
- プランクトン生活:浮力が高く、表層〜中層を漂う
- 分散効果:天敵や環境変化のリスクを分散できる
- 温度・餌の豊富な海域へ自然に運ばれる:成長に最適な場所へ届く
“流される”こと自体が、生存のための戦略になっている。
3. 餌と成長のための移動
幼生期のカニは、漂いながら餌を食べて成長する。
- 動物プランクトンをつまんで食べる
- 日中は深場、夜は表層へ上がる「日周鉛直移動」を行う種も
- 水温が適した場所へ自然に運ばれる
- 成長に必要な環境が整っている海域に集まりやすい
海流は“餌の豊富な場所へ連れて行く働き”も持っている。
4. メガロパ幼生と“岸へ戻る”タイミング
ゾエアが成長すると、よりカニに近い「メガロパ幼生」になる。
- 脚が発達し、泳ぎと歩行ができるようになる
- 岩礁・砂地へ戻るタイミングを潮と匂いで感じ取る
- 潮の流れが弱い日を選んで上陸・定着する例もある
- この段階で“カニとしての生活”が始まる
流されてきた旅の終わりに、幼生は“戻るべき場所”を選ぶ。
🌙 詩的一行
揺れる水の道をすすむ小さな影が、海の奥でゆっくり形を変えていく。
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