― 海が静かになる夜、カニはそっと古い殻を手放す。硬い殻の下で新しい体がゆっくり広がり、再び海の底へ歩き始める。その短い時間だけ、カニはもっとも弱い姿になる。脱皮は、成長と危険が背中合わせの大きな転機だ ―
カニは一生の中で何度も殻を脱ぎながら大きくなる。脱皮直後は体が柔らかく、天敵に狙われやすいため、安全な環境や時間帯を選ぶ。ここでは、脱皮が起きるしくみと、夜が選ばれやすい理由を整理する。
🦀目次
1. カニが脱皮する理由 ― 成長と修復
カニの殻は大きくならないため、体が成長すると殻を脱ぐ必要がある。
- 成長:殻を脱いで体を大きくする
- 修復:欠けた脚などを脱皮後に再生しやすくなる
- 内部の更新:筋肉・器官の成長に合わせて調整する
- 繁殖準備:成熟前に脱皮がまとまる種もある
脱皮は“成長の節目”であり、生き物としての大きな更新だ。
2. 殻の下で起きる“準備”のしくみ
脱皮は急に起こるわけではなく、内部で長い準備期間がある。
- 古い殻の内側に新しい殻をつくり始める
- 体内の水分量を調整し、殻を押し広げる準備をする
- 甲羅と脚のつなぎ目が“割れやすい構造”に変わる
- 必要なエネルギーを蓄えてから脱皮に入る
準備の間は外敵を避けて、影の多い場所に潜むことが多い。
3. なぜ夜に脱皮が多いのか
多くのカニが“夜”を選ぶのには明確な理由がある。
- 天敵が減る:夜は視覚捕食者(魚)が活動しにくい
- 光が弱い:目立ちにくく、襲われる確率が下がる
- 潮が安定しやすい:夜間は水温や流れが落ち着くことが多い
- 安全な場所を確保しやすい:海底で静かに過ごせる時間帯
脱皮は“最も弱い時間”をどうやって守るか、という選択でもある。
4. 脱皮直後の弱さと生き残りの工夫
脱皮直後のカニは柔らかく、簡単に傷ついてしまう。
- 体が柔らかく、触れるだけで形が変わるほど
- 脚や甲羅が固まるまで数時間〜1日かかる
- 砂や岩陰に深く潜り、身を隠す時間が長い
- 体内の水分を膨張させ、殻を大きくする工夫がある
この“柔らかい時間”をどう切り抜けるかが、成長の鍵になる。
🌙 詩的一行
静かな海底でひとつの殻がほどけ、新しい体がそっと砂に触れる。
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