🦀 カニ(淡水)5:モクズガニ ― 川を遡る毛深き旅人 ―

カニ(淡水)シリーズ

基礎情報

  • 分類:甲殻類・十脚目・短尾下目
  • 和名:モクズガニ
  • 学名:Eriocheir japonica
  • 分布:日本(北海道〜九州)、東アジア
  • 主な環境:河口域〜河川中上流(汽水〜淡水)
  • 体サイズ:甲幅 約5〜8cm前後
  • 食性:雑食(落ち葉・底生動物・有機物など)
  • 活動:主に夜行性
  • 繁殖:海で産卵・幼生は海域で成長
  • 見つけ方:夜間、河川敷や護岸の隙間を観察
  • 注意:地域により漁業対象。採集規制に注意

川幅が広がり、流れが一度落ち着く場所。水面は穏やかだが、底には確かな流れが残っている。夜になると、その流れに逆らうように、影がひとつ動き始める。モクズガニは、川の下流から上流へ、時間をかけて移動するカニだ。

モクズガニの生活域は、ひとつの場所に固定されない。汽水域から淡水域まで、川全体が行動範囲になる。海に近い場所で姿を見せることもあれば、山あいの川で見つかることもある。その移動は一方向ではなく、川の状態や成長段階に応じて変わる。

川は常に同じではない。増水し、濁り、流れが変わる。それでもモクズガニは、そうした変化を避けずに遡る。流れに逆らい、底を歩き、石や護岸に体を寄せながら進んでいく。その姿は、川という環境を前提にした生き方そのものだ。

前へ進むことが、このカニの特徴になる。横に位置をずらす淡水カニとは違い、モクズガニは距離を移動する。川を上り、やがて下る。その往復の中で、川と海の両方に関わりながら暮らしている。

🦀目次

🌿 1. 川全体が生活域になる ― 汽水から淡水へ ―

モクズガニは、川の下流から上流までを行き来する。淡水だけで完結するサワガニとは違い、汽水域を含む広い範囲を利用する。

  • 下流:河口付近や汽水域。
  • 中流:流れが安定する区間。
  • 上流:岩が多く、流れのある場所。
  • 連続性:川が途切れないことが前提。

川全体がつながっていることで、モクズガニの生活は成立している。

🪨 2. 流れに逆らう体 ― 移動に適した構造 ―

モクズガニは、流れに逆らって移動するための体をもつ。脚は強く、鋏の付け根には毛が密生し、岩や底質をとらえやすい。

  • 脚:底をつかみ、流れに耐える。
  • 毛:摩擦を増やし、滑りにくくする。
  • 体重:水に流されにくい。
  • 姿勢:底に張り付くように歩く。

速く泳ぐのではなく、確実に歩くことが、遡上の基本になる。

🌙 3. 夜の遡上 ― 静かな移動と採食 ―

遡上は主に夜に行われる。昼間は身を隠し、暗くなると川底を進む。

  • 時間帯:日没後から夜間。
  • 移動:流れに沿って底を歩く。
  • 採食:落ち葉・底生生物。
  • 回避:光や振動を避ける。

目立たない移動が、長距離の遡上を可能にしている。

🏞️ 4. 川と人の重なり ― 利用と変化 ―

モクズガニは、人の暮らしとも重なってきた。食用として利用される一方、川の構造変化の影響も強く受ける。

  • 利用:地域の食文化。
  • 障害:堰やダムによる分断。
  • 変化:護岸で隠れ場所が減る。
  • 影響:遡上経路が失われる。

川のつながりが失われると、モクズガニの移動も途切れる。

🌙 詩的一行

流れに逆らう歩みが、川の長さを体に刻んでいく。

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