🐟イワシ5:カタクチイワシ ― 小さな捕食者 ―

イワシシリーズ

― 弱さの中に、牙を持つ ―

カタクチイワシは、マイワシよりも小さい。 だが、その口は鋭く突き出し、 小さなプランクトンから稚魚まで、なんでも食べる。
「小さな捕食者」―― それが、この魚のもう一つの顔だ。

沿岸の浅い海に群れをつくり、 潮とともに形を変えながら泳ぐ。 海藻の間、砂浜のそば、 人の足もとまでやってくる。 海と陸のあいだを往復する、小さな旅人である。


📘分類・基礎情報

  • 分類:ニシン目 カタクチイワシ科 カタクチイワシ属
  • 和名:カタクチイワシ(片口鰯)
  • 学名:Engraulis japonicus
  • 分布:日本沿岸全域。東アジア沿岸の温帯域に広く分布。
  • 体長:10〜15cm前後
  • 体重:10〜30g
  • 食性:プランクトン、小魚、魚卵など雑食性。
  • 特徴:下あごが短く上あごが突き出す口形。沿岸の基礎生態を支えるキーストーン種。

🌾目次


🌊 浅い海の狩人 ― 小さくも鋭い口 ―

カタクチイワシの口は、名前の通り片側に寄ったように見える。 上あごが突き出し、吸い込むように獲物を捕らえる。
小型ながらも“能動的に狩る魚”。 海の表層を泳ぐ稚魚や小型甲殻類を追い、 まるで光の中の影のようにすばやく動く。

その口の形は進化の証。 限られた食物を奪い合う浅海で、 効率的に生きるために磨かれた形だ。 小さくても、確かに捕食者の顔を持っている。


🌍 食べる者と食べられる者 ― 生態系の境界 ―

カタクチイワシは、海の食物連鎖の“中心”に立つ。 自らも小さな命を捕食しながら、同時に多くの魚や鳥の餌となる。 食べることと食べられることが、ほぼ同じリズムで繰り返される。
その繰り返しこそ、海の命の構造だ。

生態系は、強さではなく“つながり”で保たれる。 カタクチイワシはそのことを教えてくれる魚だ。 彼らの存在が切れれば、海の均衡は崩れる。 小さくとも、海の形を決める魚である。


🍴 しらすと人 ― 命をすくう日常 ―

春から夏にかけて、水揚げされる“しらす”は、 ほとんどがカタクチイワシの稚魚だ。
白く透ける小さな命をすくい上げ、 塩ゆでして天日に干す。 浜に広がる白い光景は、季節の風物詩。

人はこの小さな命を日々の糧として受け取ってきた。 それは単なる漁ではなく、海との呼吸を合わせる行為。 小さな魚の命が、人の暮らしを温めてきた。


🌙 詩的一行

小さな牙が、海の形をつくる。


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