🐗イノシシ2：姿と生態

― 山の筋肉 ―

森の斜面に、掘り返された跡が残っている。
地面には湿った匂い、枯葉の裏には小さな虫の動き。
その痕跡の先に、重い足音がある。
イノシシは、音ではなく匂いで森を読む。
風の向き、獣道の湿り、遠くの果実。
見えない世界を、鼻先で確かめながら進んでいく。

🌾目次

イノシシの体は、まるで斜面のために作られたようだ。
重心は低く、胴は太く、脚は短い。
その形が、急な山の登り下りに強い。
鼻先には軟骨の塊があり、地面を掘る力を生む。
牙は曲がり、前方へ突き出すように伸び、
木の根を裂き、敵から身を守る。

春、山菜や若草を食べ、夏には虫やミミズを掘り出す。
秋はドングリと栗、冬は根や樹皮。
一年を通して、森のすべてを口にする。
雪が降れば落葉の下を掘り返し、
冷たい土の中に残る命を探す。
その暮らしが、森の栄養を循環させる。

イノシシが地面を掘る跡は、ただの被害ではない。
そこには光が差し込み、草の芽が出る。
小さな水溜まりができ、虫が生まれ、鳥が集まる。
掘り返すことが、森を更新する行為になる。
彼らは破壊者ではなく、再生者だ。

森を歩くたび、地面は新しく呼吸を始める。