🐗イノシシ11：再び森へ

― 共に生きるための眼 ―

人の畑を離れ、森の奥へと戻る影がある。
夜が明け、霧が薄れ、山が静けさを取り戻す。
それは逃げるのではなく、帰るという行為。
森に再び息が通うとき、人の暮らしもまた変わっていく。

🌾目次

かつて森は、イノシシにとって無限の食卓だった。
木の実、根、虫、湿った土。
人が山を離れ、手入れをやめたことで、
森は荒れ、道は消え、実りは減った。
イノシシが里へ下りるのは、失われた森の記憶を探す旅でもある。

人は長く「被害」という言葉でイノシシを語ってきた。
けれど、彼らの行動の多くは環境の変化への応答だ。
見方を変えれば、それは自然の声であり、
森が人に投げかける問いでもある。
恐れから理解へ――その転換が、共存の第一歩になる。

放棄された棚田を再生し、果樹や在来種を植える。
地域によっては、イノシシの通り道を観察し、
生態のリズムに合わせて農作業を調整する試みもある。
森と畑の境界を柔らかくし、互いに生かす知恵。
その先にあるのは、管理でも排除でもない、
“共に生きる”という選択肢だ。

森を見つめるその眼が、未来のはじまりになる。