🌾 イネ7:穂と花 ― 風にゆだねる受粉の瞬間

イネシリーズ

― 風がひらく、わずか一日の花 ―

稲の花は小さく、そして気づかないほど静かに咲く。
華やかな色も香りもない。
それでも、風がふと吹いたその瞬間に、生命は確かに渡される。
穂と花を知ることは、稲という植物がどのように未来をつないでいるかを知ることでもある。


🌾目次


🌾 穂の構造 ― 小さな“房”の集合体

稲の穂は、「小穂(しょうすい)」と呼ばれる粒の単位の集合体だ。
1本の穂には数十〜百以上の小穂がつき、そこに花があり、やがて籾になる。

穂の構造は大きく3つ。

枝梗(しこう) …… 穂の枝となる軸
小穂 …… それぞれが一つの花を持つ単位
籾殻 …… 花を包む保護殻(のちの籾になる)

細かい構造の積み重ねが、最終的な収量に直結するため、
農家は穂の姿に特に敏感だ。


🌸 稲の花とは ― 目立たない一日の命

稲の花は、白く細い“雄しべ”と“雌しべ”だけでできた、とても小さな花だ。
花弁はない。咲くのもわずか数時間から一日。

稲の花が静かなのは、昆虫ではなく風で受粉する風媒花だから。
色も匂いも必要ないため、機能だけを研ぎ澄ませたつくりになっている。

開花は通常、午前中の日が差しはじめる頃に起きる。
稲は光と温度の変化に敏感で、空気が動く時間帯に合わせて咲くようにできている。


🍃 風媒花のしくみ ― 稲が昆虫を頼らない理由

稲が風で受粉するのは、湿地という環境に合わせた進化だ。

・昆虫が飛びにくい環境でも確実に受粉できる
・風が通りやすい田んぼでは効率がよい
・花粉が軽く、遠くまで飛ばしやすい

また、稲の雄しべは外側に大きく開くため、 風が吹くと花粉が一気に散る。
これは風媒花として非常に効率の良い構造だ。


🌬 受粉の瞬間 ― 葯がひらき、花粉が風に乗る

開花の瞬間、雄しべの先端にある葯(やく)がふくらみ、ぱっと割れる。
その中から黄色い花粉がこぼれ、風に乗って散っていく。

花粉が雌しべの柱頭に届くと、そこから管が伸びて胚珠へ到達する。
これが受精の瞬間であり、米がつくられる始まりだ。

この一連の過程は、ごく短い時間のなかで進む。
広い田んぼが静かでも、花粉は見えない風のなかで飛び交っている。


🌱 受精後の変化 ― 粒が形づくられる始まり

受精したあと、花はしぼみ、籾殻の内部でゆっくりと米のもとが育ち始める。
この時期の変化は外から見えないが、内部では細胞が分裂し、“粒”の設計図が組み上がっている。

ここから登熟までの過程は、稲の生命が最も集中する時間だ。
ほんの一瞬の受粉が、その年の収穫すべてを左右する。


🌙 詩的一行

風が、ひと粒の始まりをそっと運んでいく。


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