🌾 イネ5:茎 ― 立ち上がる草の芯

イネシリーズ

― 水から空へ伸びる一本の線 ―

稲の茎は、細く見えるのに驚くほど強い。
風にしなるしなやかさと、穂を支える芯の固さ。
この“立つ力”がなければ、稲は水田の風景になれなかった。
一本の茎に宿る仕組みを知ることは、草が立つことの秘密を読むことでもある。


🌾目次


🌿 茎の基本構造 ― 中空の強さ

稲の茎は中が空洞(中空)になっている。
細くて軽いのに折れにくいのは、この構造のおかげだ。

中空は、まさに“パイプ”のような働きをする。
外側の壁が力を受け止め、しなやかに分散することで、
強い風でも倒れにくい。

イネ科植物に広く見られる性質だが、
稲はとくに節が多いことで、さらに強度を増している。


🧱 節と節間 ― 稲の“骨格”をつくる仕組み

稲の茎には、等間隔に節がある。
節はまるで“骨”のように硬く、節間は柔らかく伸びる。

…… 硬く締まり、葉と根を生む「結節点」
節間 …… 伸びて稲の高さを決める部分

節間は、光や温度によって伸び方が変わる。
風の強い地域では節間が短くなり、草丈が低く安定する。
この可変性が、稲が多様な気候に適応してきた理由でもある。


🌬 風に強い理由 ― しなりと弾力

稲が風に吹かれて一斉にしなる様子は、田んぼの象徴的な風景だ。
しなやかに曲がり、“元に戻る力”があるから倒伏しない。

この性質は、細胞壁の構造と中空のしなりによって生まれる。
外側の細胞は繊維質が多く、力を吸収するようになっている。

風にゆれる姿は儚く見えて、
内部では計算されたように力が分散されている。


🌾 穂を支える力 ― 登熟期の強度変化

稲の茎が最も試されるのは、登熟して穂が重くなる時期だ。
水分を吸い、米が充実してくると、穂の重みで大きくしなる。

このとき、しっかり育った節と太い節間が、穂を支える要になる。
弱い株では倒伏しやすくなるが、
分げつが健全で、根がよく張った株ほど、茎の強度も上がる

茎は、収穫の成否を左右する重要な器官なのだ。


🧪 茎の生理 ― 糖と水が通る道

茎の内部には、維管束と呼ばれる通り道が走っている。
ここを通って、葉でつくられた糖や、根から吸い上げた水が運ばれる。

師管 …… 糖(光合成産物)を穂へ運ぶ
道管 …… 根からの水や養分を運ぶ

登熟期には師管が活発になり、
葉でつくられた糖が穂へ集中していく。
茎はただの“柱”ではなく、稲全体をつなぐ循環の中心でもある。


🌙 詩的一行

風の流れを受け止めながら、稲は空へ向かう芯を伸ばしている。


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