― 水の下で息をする草 ―
水に沈む土のなかで、稲は静かに根を広げていく。
空気の少ない泥の底で、どうやって呼吸し、どうやって立ち続けるのか。
水辺に生きる草の強さは、いつも目に見えない地下から始まっている。
根という“もうひとつの身体”をたどることは、稲の生命の仕組みを知ることでもある。
🌾目次
- 🌱 根の役割 ― 稲を支える「地下の器官」
- 💧 湿地で呼吸する仕組み ― 通気組織と酸素の道
- 🟤 直根・側根・不定根 ― 稲の根の種類と働き
- 🌾 倒伏を防ぐ力 ― 根がつくる強い株
- 🧪 根の生理と養分吸収 ― 肥料との関係
- 🌙 詩的一行
🌱 根の役割 ― 稲を支える「地下の器官」
稲の根は、ほかのイネ科植物と同じように繊細で細い。
しかし、その細い根が何百本も土に伸び、株全体をしっかりと支えている。
水田の泥は重く、酸素が少ない。それでも稲が倒れずに立てるのは、根が常に新しく、広く張り替わる性質を持つからだ。
根は「支える」「吸う」という基本的役割に加えて、
水田という特殊な環境で生きるための器官として進化している。
💧 湿地で呼吸する仕組み ― 通気組織と酸素の道
水に満たされた土の中は、ほとんど酸素がない。
そこで稲が持つのが、通気組織(アエンキマ)と呼ばれる特別な構造だ。
稲は茎や根の内部に細い空気の通り道をつくり、
葉から取り込んだ空気を地下まで送り届ける。
つまり、地上部が“肺”、根が“指先”のように働く仕組みだ。
この機能のおかげで、稲は泥の深い水田でも呼吸できる。
水辺に生きる植物の中でも、稲の通気組織の発達は特に優れている。
🟤 直根・側根・不定根 ― 稲の根の種類と働き
稲の根には、いくつかの種類がある。それぞれ役割も違う。
・直根 …… 幼い苗のときだけ伸びる“最初の根”
・冠根(不定根) …… 地上部の節から出る、成長後の主力
・側根 …… 冠根から四方に広がる細い根
成長が進むと、もっとも重要なのは冠根。
水田の泥にしっかり広がり、株全体の安定を支える。
🌾 倒伏を防ぐ力 ― 根がつくる強い株
稲作でよく使われる言葉に「倒伏」がある。
これは、強風や大雨で稲が倒れてしまうことを指す。
倒伏を防ぐには、地上部の丈夫さよりも、
根がどれだけ太く広がっているかが鍵になる。
発育のよい冠根が伸びると、株は地面にくい込み、風に揺られても戻る力が強くなる。
健康な根の量は、そのまま稲の収量にも直結する。
🧪 根の生理と養分吸収 ― 肥料との関係
根は、窒素・リン酸・カリといった養分を吸収しながら成長する。
しかし稲の特徴は、水の層を通じた独特の吸収方式にある。
・水田では、微生物によって養分がゆっくり溶け出す
・根が呼吸できる“薄い酸素層”が泥の表面にできる
・この場所で養分が効率よく吸収される
そのため、根の張り具合は栽培の成功に直結する。
肥料の与え方や水の深さが、根の広がりを大きく左右するからだ。
🌙 詩的一行
静かな泥の底で、稲は見えない光をつかんでいる。
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