🌾 イネ3:アフリカイネ ― 乾きを生きる稲

イネシリーズ

― 風と土の狭間に立つ草 ―

アフリカの大地で、人々は一本の稲に祈りを託した。
雨期と乾期がくっきり分かれ、時に激しい洪水も訪れる土地。
その過酷な環境のなかで、ひっそりと生き残ってきた稲がある。
アフリカイネ――強さの理由を知ることは、栽培の知恵をたどることでもある。


🌾目次


🌍 アフリカイネとは ― 西アフリカで生まれた稲

アフリカイネ(Oryza glaberrima)は、西アフリカで独立して栽培化されたもうひとつの稲である。
アジアイネとは起源も形質も大きく異なる、明確に別の種だ。

栽培の歴史はおよそ3,000年以上前にさかのぼり、
ニジェール川流域の湿地帯を中心に広がった。
乾期と洪水が周期的に訪れる気候に合わせ、独自の特性を獲得してきた。


💧 乾燥と洪水への適応 ― 強靭な生態のしくみ

アフリカイネの最大の特徴は、極端に変動する水環境でも生き残る力である。

・乾燥耐性が高い(休眠性が強く、発芽のタイミングを調整できる)
・洪水にも耐えやすい(茎が急速に伸び、水面へ出ようとする)
・根の張りが強く、倒伏しにくい

こうした性質は、アジアイネには見られない“環境適応型”の強さであり、
西アフリカの農耕社会を守ってきた理由そのものだ。


🦟 害虫への抵抗性 ― 野生の力を引き継ぐ

アフリカイネは、野生種に近い形質を多く残しており、害虫や病気に対する抵抗性が非常に高い

・イネミズゾウムシなどの害虫に強い
・葉いもち病などの病害耐性も高い
・栄養価の高い土地でなくても育つ

そのため、農薬が手に入りにくい地域でも栽培しやすく、
「強い草」として長く受け継がれてきた。


🏞 在来農法との関係 ― 受け継がれる栽培文化

アフリカイネは、アジアイネのように大規模な水田を必要としない。
むしろ、自然のままの湿地・河川沿い・小規模な田でよく育つ。

そのため、地域の在来農法と強く結びつき
家族単位の小さな農地でも安定して生産できた。
この稲が地域の暮らしを支えてきた背景には、
「少ない手間でも育つ」という確かな利点がある。


🌿 現代のアフリカでの役割 ― NERICAの誕生

近年、アフリカイネの強さとアジアイネの多収性をかけ合わせた
NERICA(ネリカ) と呼ばれる品種群が開発された。

これは、アフリカの食糧事情を改善するための画期的な取り組みで、
両者の“いいところ”を受け継いだ稲として注目されている。

アフリカイネの遺伝資源は、今も未来の稲作の基盤となりつづけている。


🌙 詩的一行

乾いた風のなかで育つ一粒が、静かに命をつないでいく。


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