🌾 イネ13:登熟 ― 粒が満ちていく時間

イネシリーズ

― 緑の粒が、ゆっくりと光をたたえはじめる ―

出穂を終えた穂の内部では、受粉した小さな粒が静かに大きくなっていく。
この“満ちていく時間”を登熟(とうじゅく)という。
水分の多い柔らかな粒が、やがて白く、固く、米としての形を整えていく。
その変化はゆっくりだが、稲作において最も重要な期間でもある。


🌾目次


🌾 登熟とは ― 粒が大きく満ちていく過程

登熟期とは、受粉後に粒の内部で胚乳が発達し、デンプンが蓄えられていく時間のこと。
最初は水分の多い柔らかな粒が、しだいに重さを増し、米らしい質感へ変わっていく。

・最初は透明感のある緑がかった粒
・次第に白く濁り、中心から詰まっていく
・十分に詰まると、粒はしっかりとした重みを持つ

この期間の積み重ねが、粒の大きさ・品質・食味をすべて決める。
登熟は、稲作の「結果」が静かに形になる時間でもある。


🥣 デンプンの蓄積 ― 白米の中身ができるしくみ

登熟の中心となるのは、粒の内部で進むデンプンの蓄積だ。
葉の光合成でつくられた糖が、穂へと運ばれ、胚乳のなかにたくわえられていく。

・葉でつくられた糖が師管を通って運ばれる
・胚乳の細胞がその糖をデンプンに変える
・デンプンが粒の奥から外側へと広がっていく

デンプンの種類(アミロースとアミロペクチン)の割合は、
粘り・食感・もちもち感を決める重要な要素。
お米の“味の核”は、この登熟の時間に生まれている。


🌡 温度・水分・光 ― 登熟を左右する環境

登熟は環境条件に敏感で、とくに気温・水分・光の影響を強く受ける。

気温 …… 最適は20〜25℃前後。高温が続くと白未熟粒が増える
水分 …… 水田を浅く保ち、根の負担を減らす
…… 日照不足はデンプン蓄積を弱め、粒が痩せやすい

とくに登熟後半の高温は、米の白濁や胴割れの原因になり、食味を大きく下げてしまう。
気候の変化が米の質に現れやすいのは、この期間が繊細だからでもある。


🌾 青→黄→黄金色 ― 色でわかる成熟の進み方

登熟が進むにつれ、籾と粒の色が少しずつ変わっていく。

・青緑の柔らかな穂
・黄緑へと変わり、葉色も少しずつ抜けていく
・やがて穂全体が淡い黄色から黄金色へ

黄金色になった田んぼは、「収穫が近い」という季節の合図。
風に揺れる穂が音を立てるようになるのもこの時期で、
遠くから見ても、田んぼの表情がやわらかく変わって見える。


🔍 登熟期の管理 ― 収量と品質を守るために

登熟期は、農家にとって“最後の守り”の時間でもある。
ここでの管理が、その年の出来を大きく左右する。

・水位を浅く保ち、根の負担を減らす
・この時期の肥料の追加は避け、倒伏のリスクを減らす
・病害虫の発生を抑え、葉の光合成能力を守る
・台風前には排水を整え、根元の傷みを防ぐ

稲はもう大きく背を伸ばすわけではない。
けれど粒の中では、最終的な品質がゆっくりと形になっていく。
登熟は、見た目の変化が少ないぶん、注意深く見守るべき時間でもある。


🌙 詩的一行

ひと粒の奥で、季節がしずかに満ちていく。


🌾→ 次の記事へ(イネ14:稲刈り・脱穀 ― 実りを受けとる仕事)
🌾→ 稲シリーズ一覧へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました