🌾 イネ12:出穂 ― 穂が空へ向かうとき

イネシリーズ

― 緑の茎の奥にあった穂が、ようやく光へ出ていく ―

分げつを終えた稲は、やがて内部で穂をつくり始める。
その穂が茎のなかをゆっくり押し上げ、ある日ふいに姿をあらわす瞬間――それが出穂(しゅっすい)である。
田んぼの色が深い緑から“稲の形”へ変わる、節目の出来事だ。


🌾目次


🌾 出穂とは何か ― 穂が外へ現れる瞬間

出穂(しゅっすい)とは、茎の中で育ってきた穂が外へ姿を現す段階のこと。
茎がスッと伸び、葉のつけ根が開き、そのすき間から穂先が見え始める。

・茎の上部が太くなり、ふくらんで見える
・葉の形が変わり、穂が出るための“道”が開く
・穂先が1〜2cm見えた頃が、出穂の始まり

この時期の田んぼは、株ごとに黄色みを帯びはじめ、
“稲が実りに向かって動き出した”ことが見た目にもはっきりわかる。


🌱 穂の成長 ― 茎のなかで進む準備

穂は、出てくるよりずっと前から茎の内部で形成されている。
この時期の茎を割ってみると、未熟な穂が小さな房のように並んでいる。

・まず“花”としてのもとがつくられる
・次に小穂(しょうすい)が穂軸に沿って並ぶ
・茎の伸長とともに、穂全体が上へ押し上げられていく

穂が健康に育つかどうかは、この内部形成の段階に左右される。
そのため農家は、この時期の栄養状態や水管理を特に慎重に見守っている。


🌤 温度と日長 ― 出穂期を決めるふたつの要因

出穂は、カレンダーの都合だけで起こるものではない。
稲は環境を感じとりながら、適切なタイミングで穂を伸ばす。

温度 …… 一定の積算温度に達すると出穂が近づく
日長(ひなが) …… 品種ごとに、日が長い/短いことへの反応が違う

とくに日本の品種は日長への反応が強く、
地域ごとに「この土地に合った出穂期」の品種を選ぶのはこのためでもある。


🔍 出穂の判断 ― 農家が見ている細かなサイン

出穂期を正しく見極めることは、肥料の最終調整や水管理にもつながる。
農家が注目するサインは、次のようなものだ。

・茎の上部が急に太くなる
・最上位葉(止葉)がピンと立つ
・止葉の付け根がわずかに開き、内部の穂が押し上がっている
・株全体の葉色にツヤが出る

穂先が1〜2cm見えた時点で「出穂期」と判断され、
そこからの天候や水管理が、その年の出来に直結してくる。


📈 出穂と収量 ― この時期がなぜ重要なのか

出穂がそろっているかどうかは、その年の収量と品質に大きく響く。

・出穂が揃う → 穂ぞろいが良く、登熟も安定する
・出穂がバラつく → 一部の穂が遅れ、成熟にムラが出る

また、出穂直後に高温・強風・長雨が重なると、受粉がうまくいかず、
不稔が増えて収量が落ちることもある。

そのため農家にとって、出穂期は一年の中でももっとも緊張する時間のひとつになっている。


🌙 詩的一行

伸びゆく穂の先に、季節がそっと灯りはじめる。


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