― 一本の苗が、小さな群れへ変わっていく時間 ―
田植えを終えた稲は、最初は一本の細い茎として水面に立っている。
けれど日が経つにつれて、根元から新しい芽がそっと顔を出す。
それが分げつ。一本だった茎が二本、三本と増え、やがて一株が小さな束のようになっていく。
分げつは、稲の「数」を増やし、のちの収量を決める大事なステップでもある。
🌾目次
- 🌱 分げつとは ― 苗が“株”になるしくみ
- 🌾 有効分げつと無効分げつ ― すべてが穂になるわけではない
- 🌤 光・温度・肥料 ― 分げつを増やす条件
- 🌊 浅水管理の役割 ― 増やしすぎず、足りなさすぎず
- 📈 収量との関係 ― 株の「姿」で結果が変わる
- 🌙 詩的一行
🌱 分げつとは ― 苗が“株”になるしくみ
分げつは、稲の茎の根元から新しい芽が生えてくる現象のこと。
一本の苗の基部には、葉のつけ根ごとに小さな芽のもと(腋芽)があり、条件がそろうとそこから新しい茎が伸びてくる。
・最初は一本だった茎が、二本、三本と増える
・増えた一本一本も、のちに穂を持つ「稈(かん)」になる
・株全体の葉の量が増え、光を受け止める面積も広がる
この「増える力」が弱いと穂の数が足りず、逆に強すぎると栄養が分散して粒が細くなる。
分げつは、稲のバランスを決める中枢のような働きを持っている。
🌾 有効分げつと無効分げつ ― すべてが穂になるわけではない
生まれた分げつがすべて穂をつけるわけではない。
稲には、次のような区別がある。
・有効分げつ …… 成熟して穂をつける分げつ
・無効分げつ …… 途中で生育が止まり、穂にならない分げつ
一般的に、早い時期に出た分げつほど有効分げつになりやすく、
遅れて出た分げつほど穂になる前に生育が追いつかなくなる。
農家は「分げつの数」そのものより、
有効分げつがどれくらい確保できているかを重視して田んぼを見ている。
🌤 光・温度・肥料 ― 分げつを増やす条件
分げつの出やすさは、環境条件によって大きく変わる。
・光 …… 株の内部まで日が差し込むことが重要
・温度 …… おおむね20〜30℃で活発になる
・肥料 …… とくに窒素が多いと分げつが増えやすい
田植えの間隔を詰めすぎると、株と株が早くふれ合い、内部に光が入りにくくなる。
そのため、条間・株間をきちんと保つことも、分げつを促すための大事な条件のひとつだ。
🌊 浅水管理の役割 ― 増やしすぎず、足りなさすぎず
分げつ期の水の深さも、稲の姿を大きく変える。
・浅水(数センチ)…… 株元に光が届き、分げつが出やすい
・深水 …… 茎は伸びるが、分げつは抑えられやすい
増やしたい時期には浅水にして株を広げ、
増えすぎてきたら水位を少し上げて生育の勢いをならす、という管理も行われる。
水面の高さは、見た目にはわずかな違いでも、
稲にとっては「広がるのか」「しぼるのか」を分ける合図になっている。
📈 収量との関係 ― 株の「姿」で結果が変わる
最終的な収量は、1株あたりの穂数と1穂あたりの粒数、そして粒の太り方で決まる。
このうち穂数の土台をつくるのが分げつだ。
・分げつが少なすぎる → 穂が足りず、全体の収量が落ちる
・分げつが多すぎる → 栄養が分散し、穂や粒が小さくなりやすい
理想的なのは、株のまわりにほどよく茎が広がり、
どの茎にも十分な光と風が通るような姿。
田んぼを遠くから眺めたとき、その「姿勢」がそろっているほど、豊かな実りに近づいていく。
🌙 詩的一行
ひとつの株の根元から、静かな息がいくつも枝分かれしていく。
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