🌾 イネ10:発芽 ― 一粒が動きだすとき

イネシリーズ

― 水を吸った粒が、静かに目を覚ます ―

乾いた米粒が、水に触れた瞬間。 その内部では、眠っていた仕組みがゆっくりと動き出す。
胚乳の蓄えを使い、胚が伸び、殻の内側で生命がかたちを変えていく。
発芽とは、稲が一年の旅へ踏み出す最初の動作。 その小さな変化をのぞいてみよう。


🌾目次


💧 発芽の条件 ― 水・温度・酸素

稲が発芽するためには、主に3つの条件が必要となる。

水分 …… 乾いた胚を起動させるスイッチ ・温度 …… 酵素が働くための適温(25〜30℃) ・酸素 …… 初期呼吸に必須

水田の土は酸素が少ないが、発芽の段階では土中に埋めず、 苗として育ててから田植えする理由はここにある。


🌱 胚の動き ― 最初に動く“芽の中心”

最初に動き始めるのは、玄米の端にある
ここには、のちの葉・茎・根になる構造が折りたたまれている。

・最初に幼根が伸びて殻を破る
・続いて幼芽が伸び、殻の隙間から顔を出す

この順序は、植物が「まず立つ前に、しっかり地面をつかむ」ため。
根が先に出るのは、生命の設計としてとても合理的だ。


🥣 胚乳の役割 ― 発芽を支えるエネルギー源

発芽に使われるエネルギーは、すべて胚乳に蓄えられている。
発芽直後の芽は光合成ができないため、 ここにあるデンプンを分解しながら成長を進める。

・アミラーゼなどの酵素が働き、デンプンが糖に変わる
・その糖が根と芽を動かす燃料になる

つまり、発芽は米粒の内部に蓄えられたエネルギーを使い切る行為でもある。


📈 発芽の段階 ― 水を吸う→根が出る→芽が伸びる

稲の発芽は段階的に進む。

1. 吸水期 …… 水を吸い、胚が起動する
2. 根の伸長 …… 幼根が殻を破って出る
3. 芽の伸長 …… 幼芽が上へ向かう
4. 発芽完了 …… 地上に出る準備が整う

シンプルに見えて、内部では酵素やホルモンが精密に働いている。 自然の中で最も静かな、そして最も複雑な時間だ。


🧪 苗づくりへの影響 ― 健全なスタートの重要性

発芽が健全に行われるかどうかは、 その後の苗の強さに直結する。

・均一に発芽する → 苗が揃い、田植え後に強く育つ
・発芽が不揃い → 生育にムラが出て収量が落ちやすい

苗づくりは稲作でもっとも重要な工程と言われる。 その出発点にある発芽が、稲の一生を左右する。


🌙 詩的一行

静かな一粒が、水の中でそっと目をひらく。


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