― 季節とともに海をめぐる魚 ―
冬の海が静かになると、ブリの群れが北から戻ってくる。
その姿は、海の季節を映す鏡のようだ。
ブリは潮の温度、光、音の変化を感じ取り、広い海をめぐる。
その旅の中で、人は季節を知り、暮らしの暦を作ってきた。
📘分類・基礎情報
- 分類:スズキ目 アジ科 ブリ属
- 和名:ブリ(鰤)
- 学名:Seriola quinqueradiata
- 分布:北海道南部〜九州、東シナ海、朝鮮半島沿岸まで。黒潮・対馬暖流域。
- 体長:平均60〜80cm、最大1m超
- 体重:3〜10kg前後(成熟個体では12kgを超える例も)
- 食性:小魚(イワシ・アジ・サンマなど)、イカ類、甲殻類を捕食。
- 特徴:回遊性が強く、季節によって移動範囲が数千kmに及ぶ。成長段階で名前が変わる出世魚。
🌾目次
🌊 生態 ― 潮を読む魚
ブリは、黒潮や対馬暖流に乗って日本列島を南北に回遊する大型肉食魚である。
産卵期は春から初夏(4〜7月)にかけて九州南方や五島列島沖で行われる。
卵は直径約1.3mmの浮遊卵で、海流に乗って漂いながら孵化する。
稚魚は沿岸の藻場や湾内に入り、プランクトンや稚魚を食べて育つ。
成長に伴い外洋へ出て、潮の温度に合わせて群れごとに移動を繰り返す。
秋になると北上を終えた群れが日本海へ入り、冷たい海で脂を蓄える。
この時期に漁獲されるものが「寒ブリ」と呼ばれる。
海水温が15℃前後になると活発に捕食し、イワシやアジを追って沿岸近くを泳ぐ。
その行動は海の温度変化に正確で、1〜2℃の違いも感じ取ると言われている。
🌍 成長と行動 ― 出世魚の一生
ブリの寿命はおよそ10年とされ、成長段階に応じて呼び名が変わる。
関東では「ワカシ → イナダ → ワラサ → ブリ」、関西では「ツバス → ハマチ → メジロ → ブリ」。
1年で30cm、2年で50cm、4年で80cmを超え、成魚となる。
群れの中には明確な階層があり、大型個体が先頭に立って泳ぐ。
音や振動にも敏感で、仲間との位置を保つために体側の「側線」で潮流を感じ取っている。
ブリは昼行性で、日の出とともに活発に動き、夕暮れには深場へ下る。
捕食の際は鋭いスピードで獲物を追い、時には海面を跳ね上がる。
その速さは時速60kmにも達し、筋肉の大部分が赤身で構成されていることがその力の源だ。
こうした“動く筋肉”の構造こそが、ブリ属の象徴的な進化の形といえる。
🍴 冬の文化 ― 寒ブリの記憶
富山湾を中心に、寒ブリ漁は冬の風物詩として知られている。
定置網で獲れるブリは「年取り魚」として正月の祝い膳に上がり、
その季節を知らせる“海からの手紙”のような存在だ。
漁師は風と潮を読み、寒ブリが来る夜を待つ。
銀の体に雪の光が映る朝、町には冬の匂いが満ちていく。
🌙 詩的一行
潮を読む目が、季節を知っている。
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