砂の中にいるアサリも、最初からそこにいたわけではない。
目に見えないほど小さな存在として生まれ、水に乗り、流され、やがて底にたどり着く。アサリの一生は、静かな定着から始まる前に、長い漂流の時間を持っている。
動かない貝になる前に、アサリは一度、動く。生活史をたどると、その生き方の輪郭がはっきりと見えてくる。
🦪 目次
🧬 1. 産卵と受精 ― 水中ではじまる命
アサリの繁殖は、水中で行われる。成熟した個体は、卵や精子を海中に放出し、受精が起こる。
- 繁殖:体外受精
- 時期:主に春から夏
- 特徴:多数の卵を放出
一つひとつの卵は小さく、すべてが成体になるわけではない。数を生むことで、環境の変動に対応する戦略がとられている。
🌊 2. 幼生期 ― 水に漂う時間
受精卵から孵化した幼生は、すぐに砂に潜ることはできない。しばらくの間、水中を漂いながら成長する。
- 状態:浮遊幼生
- 移動:水流に依存
- 役割:分散
この時期、幼生は自ら行き先を選べない。流れに任せることで、アサリは新しい干潟へと分布を広げてきた。
🪨 3. 着底 ― 底を選ぶ瞬間
成長した幼生は、やがて水底へと降りる。砂や泥に触れたとき、アサリとしての生活が始まる。
- 条件:適した底質
- 行動:潜砂開始
- 変化:浮遊から定着へ
すべての場所が生きられるわけではない。底の性質や水の流れが、定着の成否を左右する。
🔁 4. 成長と定着 ― 砂の中で生きる
着底後のアサリは、砂の中で成長を続ける。大きく移動することはなく、同じ場所で水を通し続ける。
- 成長:数年かけて成熟
- 生活:潜砂生活
- 繰り返し:成長と産卵
浮遊と定着。この二つの段階を持つことが、アサリが干潟という不安定な場所で生き続けてきた理由の一つだ。
🌙 詩的一行
流された時間が、居場所をつくっていく。
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