🦀蟹10:ショウジンガニ ― 荒波に立つ者

― 岩に打ちつける潮の中で ―


📘 基本情報(図鑑データ)

  • 分類:節足動物門 軟甲綱 十脚目 イワガニ科
  • 学名Eriphia verrucosa
  • 分布:日本各地の外洋に面した岩礁域
  • 体長:甲幅6〜8cm
  • 特徴:太い鋏脚、粗い殻表面、強い脚力。波に耐える岩場のカニ。
  • 食性:貝類・小魚・海藻などを食す雑食性。
  • 生息環境:潮間帯の外縁部〜波打ち際。
  • 文化:名の由来は“精進料理”にも通じ、素朴な海辺の味として親しまれる。

❄️ 生態 ― 波を受けて立つ
岩の上に、波が打ちつける。
白い飛沫が舞うたびに、
ショウジンガニは鋏を広げてしぶきを受ける。

逃げない。
波が来るたび、体を沈め、殻で受け止める。
潮が引くと、また次の波を待つ。

岩に生きるとは、
動かずに耐えることではなく、
波とともに動くこと。
それをこの小さな体で知っている。


文化 ― 名に刻まれた祈り
漁村では昔から、
ショウジンガニは“精進の蟹”と呼ばれてきた。
その肉は少なく、味も素朴。
だが、汁物や味噌にすれば、
潮の香りが身体に沁みるように広がる。

派手さのない味に、
人は“慎ましさ”と“強さ”を見た。
波にも負けず、
ただ静かに働く姿を、
自らの生に重ねたのだろう。


🌕 象徴 ― 荒波の中の静けさ
荒れる海の中に、
不思議な静けさがある。

ショウジンガニはその中で、
何かを悟ったように動じない。

波は壊し、
風は削る。
それでも岩は残る。
その岩の上に立つ蟹もまた、
変わらぬものの象徴だ。

修行僧のように、
波を受け入れ、ただそこにいる。
それが彼の生のかたち。

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